クルクス反攻で苦境に陥ったプーチン大統領
それどころか、ロシアがクルスクで反攻作戦を開始した直後、キーウでは、ウクライナ軍かロシア軍のいずれか「ミスをしたほうが負ける」(軍事筋)との緊張感が一時高まっていたほどだ。ポクロフスクからの転戦実現を喜ぶ雰囲気ではとてもなかった。 ただ、現在クルスクに投入されたロシア部隊はまったくの寄せ集め部隊。戦争開始直後にロシア軍の精強部隊とウクライナ側に恐れられた空挺部隊は、戦死者が多いため再編成を余儀なくされ、今や部隊は「3代目」。徴集されたばかりの兵士を含むなど経験不足が目立ち、実態は精鋭部隊には程遠い。
■ロ参謀総長「年内のクルスク奪還は困難」 最近プーチン氏が国防省トップら最高幹部を招集したクレムリンでの会議で、ゲラシモフ参謀総長はクルスクを完全に奪還できるのは「2025年初めまでに」と報告したと言われている。 実際にクルスク奪還がそこまで遅れれば、国内でくすぶっているプーチン氏への批判や、侵攻反対論がより表面化してくる可能性もある。その意味でプーチン氏は苦境に立たされていると言えよう。 冒頭紹介したように、9月24日に予定されているゼレンスキー氏とバイデン氏との首脳会談の結果が今後の戦局に大きな影響を与えるのは確実だ。
会談でゼレンスキー氏は、ウクライナがまとめ上げた「戦勝計画」をバイデン氏に初めて提示し、計画実現に向けたアメリカの賛同と協力を求める。ゼレンスキー氏はバイデン氏のほか、民主党の大統領候補であるハリス副大統領と、共和党候補であるトランプ元大統領にも提示する予定だ。 同計画は4項目からなると言われている。その最初の項目でゼレンスキー氏は、ロシア軍の誘導滑空弾による攻撃を防ぐため、これまでアメリカ政府がウクライナ軍に許可していないアメリカ製長射程ミサイルによるロシア領奥深くへの攻撃を認めるよう強く求める予定だ。
なぜウクライナは、この解禁を第1項目として求めるのか。それは、現在ウクライナ市民の大勢に犠牲者を出している誘導滑空弾によるロシア空軍の攻撃を食い止めることが当面、喫緊の課題だからだ。 ロシア軍はウクライナとの国境から離れた空軍基地を出撃した戦闘機から滑空誘導弾を落とす。射程50キロメートル程度で高速で落下してくる滑空弾の迎撃は困難で、ウクライナとしては基地を攻撃し、戦闘機などを破壊する以外に打つ手はないと考えている。言い換えれば、飛んでくる弓矢を落とすのではなく、弓の射手を攻撃する戦略だ。