植田総裁の発言が円安容認と受け止められ1ドル160円台まで円安が進行:政府は為替介入実施か
「悪い円安」と「良い円安」
しかし決定会合での記者会見で植田総裁は、円安によって一時的に物価上昇率が高まるだけでは金融政策で対応することはなく、それが賃金の上昇を通じてさらに持続的な物価上昇につながって初めて、政策判断に影響を与えるといった考え方を丁寧に説明した。その結果、円安阻止のために日本銀行が早期に追加利上げを行うとの観測は大きく後退し、円安が加速したのである。 政府、企業、個人は、さらなる円安進行による原材料価格上昇、製品価格上昇が経済活動に悪影響を与えることを強く警戒している。つまり円安を「悪いもの」と捉えている。 これに対して植田総裁の説明は、円安進行をきっかけにいずれ基調的物価上昇率が2%に向けて高まり、物価目標達成の確度が高まるため、それに合わせて政策金利を引き上げていく、というものだ。円安を物価目標の達成を助ける「良いもの」と捉えられる説明となっている点が、政府、企業、個人と大きく食い違う点であり、それが金融市場の失望を招いたのである。
植田総裁の説明は失敗か
植田総裁は過去には、円安進行に懸念を表明し、政府と連携していく姿勢を表明していた。今回の記者会見でも、そうした発言を前面に打ち出していれば、これほど円安は進まなかっただろう。 金融政策は為替をターゲットにせず、為替政策は政府の所管である、という建前を重視した結果、円安をけん制するどころか、円安を容認するかのように市場では受け止められてしまった。 さらに、足もとの円安が物価に与える影響は、従来ほどには大きくないとの植田総裁の発言も、金融市場では円安容認と受け止められ、さらに、円安による物価高によって生活が圧迫されるという国民の懸念に配慮していない、との批判を生じさせてしまった。 このように、今回の植田総裁の発言は、あまりにも正直かつ建前重視であったがゆえにさらなる円安進行を許してしまった。これは判断ミスと言えるのではないか。
週明けには1ドル160円台まで円安が進む
4月29日のアジア市場の朝方に、ドル円レートは一瞬1ドル160円台に乗せた。先週金曜日の日本銀行の金融政策決定会合後に円安が進み、同日の米国市場では1ドル158円台まで円安が進んでいた。週明けの29日のオセアニア・アジア市場では、158円台前半で取引は始まったが、日本時間の午前10時台に一気に1ドル160円台まで円安が進んだ。 円安を加速させる特定の材料があった訳ではないが、日本が休日であるため、政府の為替介入に対する警戒感が薄れていたことが、市場参加者が安心してドル買い円売りを仕掛けることを許した一因と考えられる。さらに、日本が休日のためドル円の取引がかなり薄いことも、市場のボラティリティを低下させ、一気に1ドル160円台まで円安が進んだ背景だろう。