世界で最も劣悪な「台湾マグロ漁船労働」。日本の食卓を飾る水産物の知られざる人権問題
アルサガ 多くの遠洋漁業の労働者は契約書を、飛行機に乗る直前に渡されています。その時点で労働者は平均で2カ月分の費用をブローカーに払っているうえ、実際に船に乗ったら労働条件が説明と異なっていたということもしばしばあります。 私たちはWi-Fiの権利を求めるとともに、台湾農業部漁業署の管轄下にある遠洋漁業の労働者を、沿岸漁業で働く労働者と同様に、労働部の管轄下に置いて保護してほしいと求めています。しかし、Wi-Fiの権利を求める活動は2年間続けていますが、行政当局は重い腰を上げようとしません。
この遠洋漁船の労働者は、私が人生の中で接してきたあらゆる労働者の中で最も搾取されている人たちだといえます。全世界でも2%しか労働組合によって組織化されていません。2022年に発表された調査リポートによれば、年間に10万人以上が遠洋漁業で死亡しています。これは控えめに見た数字だと言えます。 ──中国や韓国も多くの船を所有し、遠洋漁業が盛んです。台湾は極端な事例なのでしょうか。 アルサガ 台湾の遠洋漁業は確かにひどいものですが、ほかの国でも同様の問題があります。中国の遠洋漁船でも強制労働の問題がしばしば報告されています。少なくとも言えるのは、日本がたくさんの水産物を台湾から輸入しているという事実です。
──日本の消費者や企業に求めることは。 ハディ 日本は台湾の水産物の最大の買い手となっています。一大消費国として、台湾の遠洋漁船で働く労働者が、Wi-Fiというコミュニケーションツールを持てるようにしてほしい。 アルサガ きちんとしたコミュニケーションの権利が保障され、労働組合の結成を認めている船の水産物しか買わないといった取り組みはできるはずです。日本の消費者の皆さんは強い立場にあるということを認識してほしい。
岡田 広行 :東洋経済 解説部コラムニスト