世界で最も劣悪な「台湾マグロ漁船労働」。日本の食卓を飾る水産物の知られざる人権問題
悲惨なことに、虐待に耐え続けたシックリさんは3カ月後に船上で死亡しました。この時も船長は陸に戻ることを拒否し、シックリさんの遺体は船内の冷凍庫で2カ月間も放置されました。あまりにもひどい事態に憤った労働者が船上でストライキを起こしました。こうした実例は氷山の一角です。 ──ほかにどんな実例がありますか。 2024年8月、別の漁船に乗っていた10人の船員は、15カ月にわたって給料を受け取れず、無給のまま働かされました。船員は月550米ドルの賃金を約束されていましたが、1年以上漁を続けても1ドルも受け取っていませんでした。それどころか賃金を受け取る前に再び海に出て働かなければならないと言われました。彼らの家族は生活のために借金をせざるをえなくなり、ある船員の家族は自宅を売ることになりました。
こうした問題を解決するために私たちは労働者の組織化を進めています。先ほどの10人の労働者は上陸してFOSPIに相談し、交渉の末に最終的に支払いがなされました。 アルサガ FOSPIとともに私たちが通信手段であるWi-Fiにアクセスする権利を求めているのは、悲劇が起きるまで問題が改善されない状況を何とかしたいからです。通信手段があれば、賃金が銀行口座に振り込まれておらず、不払いとなっていることに家族がすぐ気付くことができます。食べ物が底を突きかけたときに、Wi-Fiがあれば、SOSを発することもできます。しかしこの業界では、コスト削減が優先され、労働者にとって必要なコミュニケーションの権利が保障されていません。
■世界で最も搾取されている労働者 ──漁船に乗る前にどのような契約が雇用主との間で結ばれているのでしょうか。 ハディ 契約書には1カ月の給料がいくらであるとか、いろいろなことが書かれていますが、労働者は契約書を読む暇もないままサインさせられています。また、契約内容も不平等で、2年間の契約であるのに、突然帰国を命じられたりしています。また、賃金からさまざまな名目で費用が差し引かれる仕組みになっています。