トランプ米前大統領の有罪評決、「34の重罪」の意外な中身…それでも「もしトラ」シナリオが加速するワケ
有罪評決で資金集めはむしろ加速
ただ、この有罪評決がトランプ氏の大統領選挙にとって「打撃」になったかというと、それは疑問だ。これまでも裁判関連のニュースが出てトランプ氏が苦境に立たされるたびに、資金集めはむしろ勢いづいてきた。 今回も、有罪評決が出た直後の24時間足らずの間に、トランプ陣営に3480万ドル(約54億5000万円)の資金が集まったと伝えられる。 それに、米国史上初の大統領経験者の有罪評決が大々的に報道されたのにもかかわらず、その後の複数の世論調査でも支持率に大きな変化は表れていない。 筆者は以前、トランプ氏のコア支持層とつながるアメリカ保守主義のルーツとして「カントリーミュージックを聴くアメリカ」の話をしたが(過去記事:アメリカ「分断」を読み解く鍵は、カントリーミュージック? トランプ支持者の怒りが消えないワケ)、トランプ支持者らは、都市部エリート達が作った既存システムの破壊者としてトランプ氏を見ている。 トランプ現象というポピュリズムの世界では、これまでも、数々のスキャンダルによってトランプ氏の品のなさや「悪ガキ」度が目立つほど、「アンチ・エリート」としてのトランプ氏の人気はむしろ上がった。 とは言え、さすがに刑事事件で有罪では考え直す人も多いのではないかとも思うのだが、今回の有罪評決はニューヨーク州だ。「カントリー」のトランプコア支持層には、所得の高い都会のエリート陪審員らが「軽犯罪」を「重罪」に仕立て上げた、と映るかもしれない。 自分は「魔女狩り裁判」の無実の被害者だ、というトランプ氏の「悲劇のヒーロー」ロジックにはむしろ追い風だ。 トランプ主義の真髄は、一言で言って、多様化社会への反動だ。 地方の困窮や格差拡大は、お金のあるところにお金が集中し、そうでないところには流れない、というアメリカ流資本主義の行き過ぎが原因であって、移民政策の問題ではない。移民を止めたら今の問題は解決するのかというと甚だ疑問だ。 にもかかわらず、「メキシコ人が我々から仕事を奪っている。中国がアメリカを脅かしている。グレートなアメリカ(60年代の市民権運動前の白人主導の米国を指すらしい)を取り戻そう(Make America Great Again)」という単純化されたスローガンは、怒りを感じる人々の心には響きやすい。 また、米国では実際に人種の多様化が進み、2045年にはアングロ・サクソン系白人が過半数を割ると見られている。このことも一部白人層に心理的な不安感を与えているようだ。 でも、人口動態の変化やマイノリティ拡大が民主党に有利かというと、そうでもない。 人口が拡大するラテン系有権者の間には、キューバ亡命者の子孫をはじめ、社会主義は懲り懲りで、キリスト教価値観を重視するという保守派が多く、テキサスやフロリダなど大票田でのトランプ支持層を形成する。そして彼らの多くは、自分達を白人だと考える。 トランプ主義が米国社会に渦巻く不満のはけ口になる限り、「もしトラ」や「ほぼトラ」シナリオは消えない。そのシナリオの向こうに透けて見えるのは、裁判まみれで個人的リベンジに燃える大統領と、ますます混迷を深める米国の姿だ。
小出 フィッシャー 美奈(経済ジャーナリスト)