トランプ米前大統領の有罪評決、「34の重罪」の意外な中身…それでも「もしトラ」シナリオが加速するワケ
---------- 先月末、アメリカの大統領経験者として初めて「有罪評決」を出されたトランプ前大統領。前代未聞の事態だが、それでも「もしトラ」(もしトランプ氏がアメリカ大統領に返り咲いたら)の現実味がましているのだという。いったいアメリカで今、何が起こっているのか。経済ジャーナリストで、著書に『マネーの代理人たち』がある小出・フィッシャー・美奈氏が解説する。 ---------- 【写真】中国が仕掛けた「現代版アヘン戦争」がヤバすぎる!
なんとも分かりにくい有罪評決報道
トランプ米前大統領が陪審員による有罪評決を受けたニューヨーク州の裁判は、量刑言い渡しが7月11日に予定されている。その4日後の7月15日には、ウィスコンシン州の共和党大会で、トランプ氏が大統領候補に正式に指名されることになっている。 刑事事件で有罪となった人物が、その直後に大統領候補に指名され、受諾演説を行うという米国史上未踏の領域への突入だ。 それにしても、米国で大統領経験者が史上初めて有罪評決を受けるという衝撃的な出来事なのに、この裁判の報道は分かりにくかった。 新聞のベタ記事などで「トランプ米前大統領が不倫の口止め料を不正に処理していたとして罪に問われた裁判で、陪審団が34の全ての罪で有罪の評決を下した」と読んだだけでは、「えっ? 『不倫』を口止めした云々、というのがどうしてそんな重い罪に問われるの?」とか、「何がどうなって罪が34も重なったの?」という疑問が出るだろう。おさらいしておく必要がありそうだ。 まず、余計なお世話だが、日本の報道で使われている「不倫」という表現も、筆者にはしっくりこない。不倫というのは、一般的に配偶者以外と「交際」することを指す。 でも、この裁判でトランプ氏が封じ込めようとしたとされる情報は、元アダルトビデオ女優との一夜の性的関係だ。妻以外の女性と関係を持ったことは確かだが、「お付き合いしていた」というニュアンスとはちょっと違う。 これはトランプ氏のセクハラとか女性蔑視発言が問題になっていた頃の出来事だから、そういうところははっきりさせないと、トランプ氏が選挙前に出てはまずいと考え、口止め料を渡したとされるスキャンダルの性質がうまく伝わらなくなってしまう。 そのAV女優、ストーミー・ダニエルズ(ストーミー=嵐のような、というのは芸名で、本名はステファニー・クリフォード)さんの証言によると、2006年、ゴルフイベントで知り合ったトランプ氏から、「ディナー」に誘われた。 結局、ホテルのスイートルームで水だけ出されて話し込み、寝室奧の化粧室に行ってそこから出たら、いつの間にかその寝室にトランプ氏が下着姿で寝ており、その流れでベッドを共にすることになってしまった、というのだ。 その後、大統領選挙まであと1ヶ月と迫った2016年10月、ダニエルズさんはこの10年前の出来事を雑誌社に売り込もうと考えた。ちょうど、トランプ氏の過去のわいせつ発言ビデオが浮上した「アクセス・ハリウッド」スキャンダルで大騒ぎになっていた時だ。 この騒ぎは、トランプ氏が自分は女性を性的に思い通りにできると豪語し、「プッシー(女性器を指す俗語)をわしづかみにして」などと発言していたのが、ゴシップ番組のロケバスの中で隠し撮りされていたものだ。 これを直訳して報道した日本のメディアは少なかったが、「下品な言葉で」などと訳したのでは、大統領候補者が女性の扱いについてどんな言葉を使ったために大問題になったのか、という情報がやはり抜け落ちてしまう。 アクセス・ハリウッド騒ぎの反響は大きく、共和党内でトランプ氏支持を見直す動きや、これでトランプ候補は終わった、という見方すら出た。ビデオだけなら男同士の冗談だった、ととぼけることもできるが、生身の女性に登場されてはまずい――。 そこで、トランプ氏の顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が、ダニエルズさんに13万ドルを渡し、それと引き換えに一件を口外しないよう約束させた、というのが、裁判での検察側の主張だ。