「完全な非核化」「CVID」実現にはどんなプロセスが必要か?
「検証」はスムーズに行えるか?
一方、北朝鮮は「非核化」した後も、原子力発電や医療など平和目的への利用は妨げられません。これは核兵器不拡散条約(NPT)でもすべての国に認められている権利であり、米国も異議を唱えられません。しかし、核兵器に使われるプルトニウムを作りやすい黒鉛炉は使わないこと、その危険が低い軽水炉を使用することの確認などは必要です。 平和目的の核物質についても正しく管理されているか、兵器への転用の可能性はないか、データに矛盾はないかなどが検証されなければなりません。 検証はすべて国際原子力機関(IAEA)が中心になって行うでしょうが、北朝鮮側の妨害に遭う危険があります。徹底した検証が円滑に行われることは決定的に重要なことであり、それを確保するための具体的な方策について、たとえば北朝鮮政府の協力が得られず検証が十分にできなくなった場合に、米朝協議全体を白紙に戻すかなどについても高官協議で合意しなければなりません。
非核化前の「見返り」要求には?
実際、米朝両国はすでにそれぞれの側で一定程度の措置を講じています。北朝鮮側では、核・ミサイルの実験停止を続けています。証拠隠滅のためとか、老朽化した施設との指摘もあるとはいえ、豊渓里(プンゲリ)の核実験場も廃棄しました。また、朝鮮戦争で死亡した米軍人の遺骨の返還はすでに実行しました。 米側では、毎年夏に行われている韓国との合同演習を中止することにしました。このように双方で措置を講じあっていることは、「非核化」を実現するのに本気であることをアピールし、信頼関係を高める効果があります。 協議では、北朝鮮は米国に対し、「非核化」の見返りを要求するでしょう。北朝鮮側が求める最大の問題は、平和条約は別として、制裁の解除です。とくに問題となるのは、「非核化」が完成する以前にも要求が行われることです。これに対し、現時点でトランプ政権は非核化が制裁解除の前提だとしていますが、米国としてはすべてが終わるまで何もしないではすまず、一定程度応じなければならないでしょう。米国としてもあまり硬直した姿勢を取り続けると、せっかく始めた「非核化」のプロセスが崩壊してしまう恐れがあるからです。米側が、「ここまでくれば後戻りはない」と、検証の進展に確信が持てるようになれば一定程度柔軟に対応する可能性はあると思います。 戦争状態の終結と平和条約の締結もそのような状況になったところで結論が出されるものと思われます。 一方、北朝鮮側としても、「制裁を早期に解除をしないと非核化のプロセスを進めない」というような態度を取るべきではありません。そのようなことでは結局米朝双方が非難の応酬に陥る危険が大きいからです。早期の制裁解除のためには「非核化」のプロセスを加速させることが肝要です。
----------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹