<一冊一会>誰もが人生の「経営者」?新しい価値観のインプットで頭の体操になる一冊をおすすめ
今月は「頭の体操」ができる一冊を選びました。 米国に関連するものが三冊、その他が二冊です。
格差拡大のゆくえ
東京の都心でも「ジェントリフィケーション」が起きていると知人から聞いた。要するに再開発によって家賃が値上がりすることなどで、元々住んでいた中・低所得者の人たちがよその場所に移らざるを得なくなるという動きだ。著者は研究のため米国で1年間過ごすことになり、その際に住んだのがニューヨークのブルックリンだった。単純な住民の立ち退きだけでなくそこで暮らす人々の日常の様子など、ジェントリフィケーションの問題を多面的にとらえている。
20年間に米国で何があったのか?
著者の本を読むのは2度目だ。『ネオ・チャイナ』(白水社)では、まさに「生身」の中国の人々を鮮やかに描いたルポだった。『シカゴ・トリビューン』の北京支局長、『ニューヨーカー』の中国特派員を務めた著者が今回描いたのは母国の姿だ。なぜ、米国はこれほど「分断」してしまったのか。ある人たちの人生をたどりながら、この変化が起きた原点に何があるのかを探っていく。大統領選挙を前に米国の「今」を知ることができる一冊だ。5月末には下巻も発売される。
民主主義と権威主義
内田樹氏の著作ほど頭の体操になる本はないと思う。今回は「米中論」だが、著者には『街場の中国論』(ミシマ社)と『街場のアメリカ論』(文春文庫)という既刊もある。もしかすると同じ話があるかもしれないが、面白い話は何度読んでも面白い。さて、今回の米中論でも、改めてこの2国のゆくえとその狭間で生きる日本はどうあるべきか考えさせられる。哲学者カール・ポパーを引用して、中国は「長期的には創造力でアメリカに勝つことはできない」。逆に中国は、本当の「共産主義国」になろうとしているなど、「なるほど」と思わされる指摘が満載だ。
誰もが人生の「経営者」
「経営」と聞くと、「私には関係のない世界」「難しい理論や広範な知識が必要」との印象をもつ人は多いだろう。だが、著者はそうした思い込みを否定し「実は誰もが人生の経営者だ」と説く。すなわち、仕事のみならず、家庭も、勉強も、恋愛も、老後や健康すらも「経営」でできているというのだ。笑いどころ満載の軽妙なエッセーの先に、著者が込めた「経営」への本質的なメッセージが記されている。騙されたと思って最後まで読んでほしい一冊だ。
戦場の社会史
本書は、フランスを中心とするヨーロッパにおいて、兵士と同じように命をかけているにもかかわらず、忘れ去られた人々の社会史を紹介する。ジェンダー、人種、戦時中に亡くなった人々など幅広く取り上げる。特に戦場での埋葬について、第一次世界大戦以前のヨーロッパでは、一般兵士は集団で埋葬されることもあったが、ドイツ軍に倣いフランス軍も個人の埋葬になった。死者の弔い方法に戦争が画期となったという話は興味深い。
WEDGE編集部