次世代パジェロに向けた試金石か 三菱自動車、トライトン投入の真意
質実剛健なイメージこそが経営回復に有効であることを同社は再認識したに違いない。そして次に打つべき一手は、パジェロの血統をダイレクトに感じさせるような象徴的な存在ーー。それこそがトライトンであり、今回国内再導入を決断した最大の理由といえる。 ●悪路走破も軽々こなす 筆者はこのほど、新型トライトンを実際に公道に繰り出して試乗する機会を得た。乗車すると、5.3m超えの全長と1.9m越えの全幅のボディーは大きすぎると感じたが、実際には車体サイズをつかみやすい四角いボディーデザインゆえに、意外に運転はしやすかった。パワーステアリングを設計するに当たって、女性ドライバーのことを意識して設定したといい、それがどうやら良い影響を及ぼしていると見られる。 全面刷新した新型トライトンは、本格的クロスカントリー車に求められる悪路走破性や耐久性に優れた「ラダーフレーム構造」を備えているのがポイントだ。歴代のパジェロは初代と2代目がラダーフレーム構造を採用しており、トライトンの4WDシステムはパジェロ譲りの「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」の進化版をと搭載。これによりトライトンは、パジェロのような扱いやすさと走りの良さを両立させることに成功している。まさにパジェロの系譜を受け継ぐ車種なのである。 見逃せないのが、先代トライトンの基盤を共有するSUVモデルを「パジェロスポーツ」と名付け、海外市場ではラインアップしたことだ。パジェロで培ったブランドイメージの復活を実は試みている同社の隠れた意図が、ここからも透けて見える。三菱自動車は、歴史あるパジェロを旗印にしてブランドイメージ再構築に本腰を入れているのはどうやら間違いない。 乱暴な言い方をするならば、伝統や性能を受け継いだ「次世代パジェロ」がいつか現れるのではないかとの予見を、やんわりとトライトンを通じてアピールし、市場の反応をさぐっているのかもしれない。 世界戦略車であるトライトンは、世界中のユーザーの嗜好を受けて、上級グレードの開発にも力を注いでいる。例えばサスペンションは、ピックアップトラック特有の荷物の積載容量を考慮した設定になっているものの、乗り心地の良さにも配慮している。おかげで走行中の快適性が高く、思わずピックアップトラックを運転していることを忘れてしまうほどのレベルにまで仕上げている。 新開発した2.4L直列4気筒のディーゼルターボエンジンは、加速性能は文句ないレベルに仕上がっている。ロングドライブで求められる高速性能も高く、静粛性も良い。上級グレードでは先進の安全運転支援機能をはじめとするフルオートエアコンや後席用サーキュレーター、カーナビゲーションシステムなどを搭載しており、充実した内容となっている。 同社自慢の悪路における走破性を確かめるべく、オフロードコースでの試乗も行ってみた。すると歩くのも険しい急勾配の上り坂や下り坂、凹凸のある道、路面に岩が露出した坂道などの様々な未舗装路を、トライトンは簡単に走行できていた。クルマが上下左右に揺れるような状況であっても、まるで舗装路を走っているような錯覚をしてしまうほどの性能で驚いた。試乗日は土砂降りで、路面が滑りやすくなっていたにもかかわらず、である。 もちろん、これほどの走破性を日常生活で必要とするシーンは少ないが、ダイバーズウオッチやフルサイズ一眼レフと同様、プロ向けのハイスペック仕様のギアを一般人が手にしてこれを操る快感が得られる。そこに一種の優越感を感じる人にとっては、トライトンを所有することの満足度は非常に高いのではないだろうか。 日本で販売されるのは、エントリーモデルの「GLS」と上級グレード「GSR」の2種類だ。両者で標準装備の内容は若干異なるが、エンジンや4WDシステムなど走行に関わる機能に違いはない。