戦争反対、徴兵忌避でロシア人が大量国外脱出。受け入れ国で住宅価格の高騰、インフレ率アップ
経済を支える客ながら、プーケットでは不動産価格と雇用面で住民と摩擦も
欧州の空港は、ロシアからの便の離発着を禁止していうこともあり、ロシアの国外逃亡者は、一部の富裕層を除き、欧州を目指すことを諦め、東に目を向けている。それをビジネスチャンスと捉えたのがタイだ。タイ国政府観光庁は、今年ロシア人を200万人受け入れるのを目標とする。 もともとタイはロシア人にとって人気のホリデーデスティネーション。2019年、ロシアはタイの観光市場上7番目の規模だった。ロシア人観光客の入国を禁止する欧州の国々とは対照的に、ロシア人に対し、タイ到着時に自動的に与えられる30日間のビザを、昨年10月、90日間に延ばした。費用を払えば、「タイランド・プリヴィレッジ・ビザ」と呼ばれる長期滞在用のビザももらえる。同月、ロシア人観光客の半分もが訪れるとされるプーケットへの、ロシアからの直行便の運航が再開された。 入国者の半分が訪れるといわれるプーケットの観光協会によれば、昨年プーケットを訪れたロシア人は100万人を超え、外国人観光客中、最多となったそうだ。 プーケットでも問題化したのが、不動産価格の高騰だ。タイでは、外国人名義でコンドミニアムの所有は認められているが、土地の購入は禁止されている。それでも合法的な抜け道を用い、ロシア人たちは一戸建てを手に入れている。コロナの影響で建設業界は建設を中断・中止していたところに、ロシア人が移ってきたため、需要が追いつかず、不動産価格が上がったと、プーケット・リアルエステート・アソシエーションのパッタナン・ピーストヴィモル氏は、シンガポールの多国籍ニュースチャンネル、チャンネル・ニューズ・アジアに話している。 ロシア人が集中しているのは高級物件だが、その影響は末端にも及び、エリアによっては、住宅は低所得者には手が届かない価格に上がっているという。賃貸価格も上昇傾向で、2023年、賃貸料は以前の2~3倍に値上がりしたそうだ。 もう1つ、住民の、ロシア人に対する不満は雇用だ。タイでは、ツアーガイドやタクシー運転手など、一部の職業は国民のみが就くことができる。しかし、ロシア人が勝手にツアーを作り、レンタカーに客を乗せて観光スポットを案内しているという。観光警察は、ウクライナ侵攻後、ロシア人の不法就労が問題化していると、チャンネル・ニューズ・アジアに話す。観光警察官は英語は話せるが、ロシア語を話せないため、取り締まりは難しい。 ロシアのウクライナ侵攻からすでに2年以上が過ぎた。戦争反対、徴兵忌避で2022年に海外に逃れたロシア人の40~45%が帰国していると、モスクワ拠点の引っ越し会社、フィニオンが報告している。イタリア・フィレンツェの欧州大学院のロシア移民の研究によれば、戦争が長引けば長引くほど、ロシアに戻る人が増えるだろうと予想している。 帰国するのは、移住先で思うような仕事が見つからなかったり、貯金が底をついたり、滞在するためのビザが下りなかったりといった理由が主だ。2022年のロシア人政治移民の幸福について調査した、欧州大学院の報告書によれば、実際の差別より、ウクライナ侵攻が激化するにつれ、それに反対する滞在先の国での差別がひどくなるのではとの恐れが、ロシア人移住者の精神面をむしばんでいるという。滞在先の国々では、「ウクライナ侵攻をよしとしないのならば、ここにいないで、ロシアに帰り、新しい政治の波を創り出したらどうか」という声も上がっている。
文:クローディアー真理/ 編集:岡徳之(Livit)