戦争反対、徴兵忌避でロシア人が大量国外脱出。受け入れ国で住宅価格の高騰、インフレ率アップ
カザフスタンでは無用の長物のロシア人も、アルメニアでは経済貢献者
旧ソビエト連邦の国では、一般的にロシア人たちの受け入れは問題というより、チャンスと考える風潮がある。しかし、それも国によってかなりの違いがあるようだ。 カザフスタンでも、流入したロシア人の影響が家賃高騰に見られる。34%の上昇率を記録すると、国民の不満が一挙に高まったとユーラシアネットが伝えている。カザフスタン国立銀行いわく「移民ショック」で、2022年12月のインフレ率が20.3%を記録した。国家統計局は特に食料品のインフレ率はさらに高く、25.3%だったと発表した。 カザフスタンは豊富な天然資源に恵まれた裕福な国で、ロシア人を受け入れる経済的メリットは薄い。それどころか、天然資源や関連施設などの国有化を阻む原因にもなり兼ねない。 昨年1月、出入国を繰り返し、無期限滞在するロシア人に対する入管法を改正。90日間のビザなし滞在を終え、出国後90日間は再入国を認めなくなった。 一方、2000年代からIT産業の成長が著しいアルメニアでは、ロシアからの移入者は、頭脳流出に悩む同産業の助っ人となっている。世界銀行や国際通貨基金(IMF)は、アルメニアの2022年のGDP成長率は4.8%と予想したが、実際は12.6%だった。これはロシア人移民のおかげといわれている。 2023年後半、アゼルバイジャンとの紛争に、ロシアがアルメニアを支援しなかったため、政府間の関係は悪化。しかし、一般人のロシア人歓迎の姿勢には、あまり変化がなかった。不動産価格の高騰もないわけではない。社会的な緊張や国民の不満の声はあまり聞かれていない。
ロシアよりでありながらも、中立の立場を貫くUAE
90年代から裕福なロシア人のビジネスの場であり、ホリデーデスティネーションでもあるのが、UAEのドバイ首長国だ。 UAEを含む湾岸アラブ諸国は、ロシアをはじめとする、石油輸出国機構(OPEC)に属さない産油国が組織するOPEC+への出資を行っており、両国のつながりは深い。ロシアのウクライナ侵攻が原因で起こった、石油の値上がりはUAEにとっては都合が良い。ロシアを非難したり、制裁措置をとったりしても、自国にはメリットがないので、UAEの立場は中立だ。ロシア人に対して、以前同様、到着時に90日間滞在可能なビザを発行している。 流入してくるロシア人によって、ドバイでも住宅不足が起こっているのは事実だ。不動産ブローカーのベターホームズによると、2022年ドバイの不動産を最も多く購入したのは、ロシア人だったという。不動産仲介業のハウス&ハウスは、同年の不動産を購入したロシア人の数は前年比125%増だったそうだ。 不動産購入の理由は、財産を守るためや実際居住するため。企業向け不動産コンサルティング・グループのCBREによると、過去12カ月間でアパートと一軒家の平均賃貸料は25%以上上昇したという。 UAE内の外交官や政府高官、ジャーナリスト、実業家といったエリートたちは、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)に包囲されるのを避けるために、ウクライナに侵攻せざるを得なかったというプーチン大統領の主張に共感するなど、ロシアの立場に理解を示す。 ドバイを拠点とするPRコンサルタント会社、ASDA’A BCWが実施した「アラブ・ユース・サーベイ2022」によると、ウクライナ侵攻の責任は、ロシアではなく、むしろ米国とNATOにあると考える若者(18~24歳)が多いことがわかった。どちらかといえば、ロシアよりであることは確かだが、人々は公にどちらの味方かを表すことはないようだ。