従来の区間記録を3選手が更新し「史上最速の2区」となった今大会。一方で、優勝候補といわれた大学のエースたちは明暗分かれる結果に photograph by (L)(C)Yuki Suenaga、(R)Nanae Suzuki

　国学院大の平林清澄(4年)は怒っていた。 　そのベクトルは自身に向けられている。 「悔しい限りです。最初は良かったんですけど、中盤から留学生を意識しすぎたなって。本当は権太坂(※2区15km過ぎにある難所)から上げる予定だったんですけどね」 【現地の写真】「平林が抜かれるなんて…」エース平林清澄は前を追えず、思わずこの顔…レース後の「TVには映らなかった」表情＆5区で大逆転の青学大・若林宏樹にハグする仲間と“中継では見られない”ゴール後の様子もに見る 　早口で話し、言葉が続かない。顔もうつむきがちだ。いつも明るく、元気いっぱいの彼が、こんな表情を見せるのは初めてだ。 　2区のランナーが襷をつなぎ、3区のランナーが走り出す戸塚中継所。平林が姿を見せたのは8番目だった。鶴見中継所で襷を受けたときのチーム順位は6位。エース区間で2つ順位を落としたことになる。 　納得のいかない走りになった要因は何だったのか。 「なかなかこれまで集団で走るレースはなかったんですけど、そうなった中で難しさを感じるレースでした」

エティーリの爆走が乱した「平林の走り」

　レースの流れをぶった切ったのは、東京国際大のリチャード・エティーリ(2年)だった。5000m、1万m、ハーフの学生記録を持つ最強留学生は、14番手から前を猛追。平林を含む集団を序盤で抜き去り、4位に上がった時点で10人抜きを達成した。 　集団の中にも城西大のヴィクター・キムタイ(3年)や中央学院大の吉田礼志(4年)ら実力者がいて、平林も無理をしてペースを上げ下げしたところがあったのだろう。終盤から勝負をかける予定だったが、権太坂付近で早くも苦しくなり、最後の戸塚の坂では足が動かなかったという。 「監督から『負けたら悔いが残るぞ。ラストしっかり』と言われたんですけど、動かなかったです。本当に申し訳ない結果になりました」 　平林はそう言って、力なくうなだれた。 　エティーリが1時間5分31秒の区間新記録を打ち立てた今回は、数々の記録を更新する史上最速の「2区」対決となった。 　平林のタイムも1時間6分38秒で、前回(1時間6分26秒で区間3位)と比べても決して悪くはない。だが、今回は6分台が8人、5分台が3人出るという、テレビ中継の解説を務めた瀬古利彦氏が「これほどレベルの高い2区は見たことがない」と言うほどのハイレベルなものだった。 　優勝争いの観点から見れば、青学大の黒田朝日(3年)の好走が光った。 　序盤から中盤にかけて力を溜め、権太坂手前でじわじわと前に追いつくと、そこから一気にペースを上げていった。最後はエティーリとの差も9秒にまで縮め、チームの襷を10位から3位へと押し上げた。 　走り終えた黒田の表情は、対照的に晴れ晴れとしていた。 　出遅れた序盤も「見える位置で走っていればとらえられると思っていたので焦りはなかったです」と言い、レースプランについては「権太坂と最後の3kmが勝負だと思っていて、そこ以外で多少差が広がっても問題はないと思っていました」と打ち明けた。 　今日の走りは満点か、と尋ねられると、こう言って笑った。 「まあ、そうですね。日本人トップが奪えなかったので完全に満足というわけではないですけど、できることはできたと思っています」 　前回も黒田は2区で区間賞。勝負の流れを引き寄せ、優勝の立役者の一人となったが、今回もまた大きな仕事をやってのけたと言えるだろう。 　1年前は原晋監督から「戸塚の坂に朝日が昇る」の名言が飛びだした。今年はどんな声がけが印象に残ったのか。 「ほとんど聞こえてなかったんですけど(笑)、『後ろから吉田君来ているよー』って言われて、あれが唯一というか、一番頭に残りました」