「お得意様」を一国に絞るのはキケン? 貿易のリスクを米中関係から読み解くと…【親子で語る国際問題】
今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は企業の間で輸出入先の多角化が求められている理由について学びましょう。
経済や貿易、サイバー領域で激しくなる米中の対立
21世紀に入って中国が急速な台頭を示し、今日では米中の間で対立が激しくなっています。しかし、台湾問題などを契機に米国と中国が本当に軍事的に衝突すれば、世界経済に与える影響は計り知れません。両国ともそれによる被害が計り知れないものであることは十分認識しており、軍事的衝突は最大限回避しようとしています。 一方、両国は経済や貿易、サイバーの領域では衝突を繰り返しており、米中貿易摩擦はその典型例ですし、サイバー攻撃などは今まさに起こっている現象です。そして、軍事の領域のアクターはもちろん軍隊ですが、経済や貿易の領域のアクターは企業であり、要は企業も米中対立の中に巻き込まれており、国際情勢の動向を注視しながら経営戦略を練ることが求められています。
日本への政治的な駆け引のため、輸出入のコントロールを行う中国
このような中で、企業に求めらているのが、輸出入先の多角化です。昨年8月、中国は福島第一原発の処理水放出に伴い、日本産水産物の輸入を全面的に停止しました。 これは突然の決定で、日本の水産加工業者の中にはホタテやウニなど、輸出先の大半を中国に依存しているところもあり、経営的難題に直面することになりました。 また、先端半導体をめぐり、一昨年10月に米国が中国向けの輸出規制を大幅に強化して以降、日本も米国からの要請に応える形で中国向けの半導体製造装置などの輸出規制を開始しました。 それにより、中国は日本への不満を募らせ、日本が中国からの輸入に依存している希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連製品の輸出規制を強化しています。 最近も、中国は希少金属の一種で半導体の材料となるアンチモン(その生産で中国は世界シェアの半分近くを占める)を輸出規制の対象に新たに加え、無許可での輸出を禁止。10月からはレアアースの統制を強化する管理条例の施行が予定されています。 2010年9月の尖閣諸島における中国漁船衝突事件の際、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出を制限しました。今日中国は、何か政治的緊張が高まった際、日本が中国に多くを依存する品目の輸出規制を強化することなどを検討していると考えられます。