山本耕史「僕が出ることはもうないと思っていた」再びマークを演じる『RENT』の魅力
初演当時、ミュージシャンたちと共にした作品創りの衝撃
ブロードウェイでは12年にわたってロングラン上演が行われ、ハリウッドで映画化もされ、今もなおアメリカ国内のツアー公演や世界各国での翻訳版上演を通して愛され続けている『RENT』。その魅力はどこにあるのだろう。作品を離れてメディアで流れることも多い「シーズンズ・オブ・ラブ」をはじめ、楽曲の素晴らしさがその要因のひとつと言えるが、けっしてそれだけではないと山本は語る。 「楽曲の力もありますけど、やっぱりストーリーですね。現状に満足していない、『俺は/私は、こんなもんじゃない』という思いで、大成功しているわけじゃない人たちがもがき苦しみながらも今日をとにかく生きていこうという作品。だからこそ、音楽を生み出すミュージシャンや、文章や写真なども含めて何かを表現しようとしているアーティストの人たちはもちろん、多くの人が共感できるんでしょうね」 そして楽曲については、作品の構造や演出と関わる部分も含めた魅力を口にする。ミュージカルは一般的に、オーヴァチュア、あるいは幕開けの1曲のインパクトで一気に観客を作品の世界観に惹きこむものが多いのではないだろうか。だが『RENT』の場合、まずそこが違うという。 「無音のところからみんなが出てきて、話をして、チューニングをして、観客の耳を澄まさせるところから始める。そこからアンプがショートして停電し、その直後に『RENT』で音を爆発させる。そんな始まり方はほかに観たことがないし、感じたこともない。それが終わったと思ったらストーリーにすっと戻っていくところも含めて、すごく『RENT』らしいスタートだと思います。あと後半の『ホワット・ユー・オウン』はマークとロジャーの集大成で、初演の時もいろいろなつらいことがあってもこの曲が始まると自分のその時の思いをぶつけられた。それで、なんだか救われるような気持ちになっていたことがすごく印象に残っています」 そうした、よい意味でラフなオープニングに留まらず、各所で見られるエチュード的な演出などは、ジョナサンがもっとコンパクトな劇場を念頭においていたのではないかと考えている。 「コリンズが外から電話をかけてきた時に彼の上から鍵を落として受け渡しをするとか、直接的ではない演出がたくさんあって、すごく小劇場的だと思います。月に映像を映すシーンも、小さな劇場の空間であればもっと大きな映像として感じられたんじゃないかな。ジョナサン自身が一番びっくりしてるだろうけど、彼が思っていた以上に大きな作品になって、大きな劇場で、セットも大きくなった。いろいろな奇跡が大成功の秘訣になったんじゃないかと思います」 “奇跡”の作品『RENT』への出演で感じたさまざまな思いは、現在も山本の胸に色濃く残っているようだ。とりわけ、ロジャーを演じた宇都宮隆(TM NETWORK)やミミを演じたTSUKASA(KIX-S)、ジョアンヌ役の坪倉唯子やベニー役のKONTA(BARBEE BOYS)といった、ロック系を中心としたミュージシャンたちとの共演は、大きな衝撃だったそう。 「26年前は一番年下で、しかも音楽活動もやってはいたけど俳優をメインとしている人間は僕だけだった。未知の世界に下っ端として入り込んで、すごく気負いがあったし、同時にものすごく虚勢を張っていた記憶があります。普通、みんなで作品を創る時には内側を向いてみんなで手を取り合うイメージだけど、初演『RENT』はみんな外側を向いていたんですよね。『さっき音外してたろう』『あいつの歌は許せない』っていうくらい、みんな尖っていたし、一人ひとりが自分のパフォーマンス、歌に確固たる思いがあった。うまく伝えるのが難しいけど、ミュージシャンの方たちは、もちろん役を演じてはいるけど、そのままの自分で舞台の上にいた。演技をしたことがない人たちの自然なパワーがあったというか。それが、初演『RENT』にとってはすごく重要だったと思う。ぶつかり合いながらも作品を通してひとつになることがとても大事だと教えてくれたし、すごくエネルギーがありました」 そして、再びの『RENT』挑戦となる。 「僕にとっては、新しい初演ですね。まさかフルに英語で演じることになるとは思ってなかったし、僕とKayちゃんだけが海外キャストの中に入っていく、不思議な企画ではあります。でも今の自分が『RENT』をやるならこれが理想的な形だろうし、自分を創ってくれた作品への恩返しでもある。お客さんもどういう感じで楽しんでくれるのか、興味もありますしね。少なくとも僕とKayちゃんがいるから、ひたすら字幕を追うのではなくてパフォーマンスに意識を向けて楽しんでもらえるような気がする。26年前にこの作品と出合ったが故の葛藤もあったけど、今回は公演を終えた後自分がどうなるかはまだわからない。思いきって小さな劇場の作品に出るか、またグランドミュージカルに出るのが自分にフィットするのか、それともいっそ制作側として新しい作品を手がけるか。もし新しく作品を創るなら早いうちに動き始めたいし、どういうことになるか、自分でも楽しみですよ」 日米合作ブロードウェイミュージカル『RENT』の東京公演は8月21日(水)~9月8日(日)、東急シアターオーブ にて。9月に大阪公演あり。 取材・文:金井まゆみ 撮影:You Ishii スタイリスト:笠井時夢 ヘアメイク:佐藤友勝 <公演情報> 日米合作ブロードウェイミュージカル『RENT』 脚本・作曲・作詞:ジョナサン・ラーソン 演出:トレイ・エレット 初演版演出:マイケル・グライフ 振付:ミリ・パーク 初演版振付:マーリス・ヤービィ 音楽監督:キャサリン・A・ウォーカー 出演:山本耕史、Alex Boniello、Crystal Kay、Chabely Ponce、Jordan Dobson、Aaron A. Harrington、Nasia Thomas、Aaron James McKenzie ほか ※全編英語上演(日本語字幕あり) 【東京公演】 日程:2024年8月21日(水)~9月8日(日) 会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11F) 【大阪公演】 日程:2024年9月11日(水)~9月15日(日) 会場:SkyシアターMBS(JPタワー大阪6F)