日米の違いを押さえて読むべき世界標準のジャーナリズム書
「規範のジャーナリズム」から「機能のジャーナリズム」へ
このことは何を意味するのか。日本のメディア環境も大きな転換期にある。私見では伝統的なメディアの信頼性を維持しつつ、新しい時代に適応したジャーナリズムのあり方を模索する必要がある。情報が量的に少なかった時代から情報過剰の時代となり、「取材、速報、告発」という情報量を素朴に増加させることを当然視した「規範のジャーナリズム」から「整理、分析、新たな啓蒙」を視野に入れた「機能のジャーナリズム」が求められているように思われる。 このような課題に対して、日本の諸メディアはまさにこれから進むべき/歩むことができる道を見出していく必要に迫られるはずだが、本書はそのための重要な示唆を与えてくれる。ただし、彼我の差を踏まえつつ日本の現状に即しながらその知見を咀嚼して適用していくことが求められる。 1 About half (48%) of U.S. adults say they get news from social media “often” or “sometimes,” a 5 percentage point decline compared with 2020. More than half of Twitter users get news on the site regularly.(https://pewrsr.ch/2Z9vmwh) 2 日本新聞協会「新聞社の総売上高の推移」( https://www.pressnet.or.jp/data/finance/finance01.php) ◎西田亮介(にしだ・りょうすけ) 日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授。1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)など多数。近著に安田洋祐(大阪大学教授)との共著『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(日本実業出版社)。 ◎ビル・コバッチ Bill Kovach 『ニューヨーク・タイムズ』ワシントン支局長、『アトランタ・ジャーナル・コンスティトゥーション』編集者、ハーバード大学ニーマン・フェローシップ運営代表を歴任。憂慮するジャーナリスト委員会の創設者・議長を務めた。 ◎トム・ローゼンスティール Tom Rosenstiel アメリカ・プレス研究所専務理事、「ジャーナリズムの真髄プロジェクト」の創設者・理事、憂慮するジャーナリスト委員会副議長を務めた。『ロサンゼルス・タイムズ』メディア批評担当、『ニューズウィーク』議会担当キャップを歴任。4冊の小説のほか、ジャーナリズム論を中心に多数の著作があり、ビル・コバッチとの共著に『インテリジェンス・ジャーナリズム』(ミネルヴァ書房)、『ワープの速度』(未邦訳)がある。 ◎澤康臣(さわ・やすおみ) ジャーナリスト、早稲田大学教授(ジャーナリズム論)。1966 年岡山県生まれ。東京大学文学部卒業後、共同通信記者として社会部、ニューヨーク支局、特別報道室などで取材し「パナマ文書」報道のほか「外国籍の子ども1万人超の就学不明」「戦後憲法裁判の記録、大半を裁判所が廃棄」などを独自調査で報道。「国連記者会」(ニューヨーク)理事、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所客員研究員なども務めた。著書に『事実はどこにあるのか』(幻冬舎新書)、『グローバル・ジャーナリズム』(岩波新書)など。
西田亮介