東京への人口移動で起きた男女比逆転―高学歴化する女性の就業と居住地選択
人口減少時代の日本。地方からは東京一極集中を問題視する声が強まっています。しかし、高度経済成長期をはじめ、地方圏から東京圏へ出てくる国内の人口移動はずっと続いてきました。一体、過去の人口移動と、近年の人口移動にはどのような違いがみられるのでしょう。 【前回】誰が地元を離れ、誰が地元に残るか──地方圏から大都市圏へ流出人口の変容 福井県立大地域経済研究所特命講師、丸山洋平氏が、人口移動や家族の姿の変化から、日本の人口を捉えるための視点について執筆する本連載。第3回のテーマは「人口移動の性別構造の変化―高学歴化する女性の就業と居住地選択―」です。 ----------
東京圏の社会増加の女性化
第2回連載では地方圏から大都市圏への人口移動について、移動者の家族属性から見た質的な変化に着目しました。最近の人口移動は過去の人口移動と比べて何が違うのか。今回は人口移動の性別構造の変化から考えてみたいと思います。 性別構造を考えるには性比を使うのが便利です。性比とは女子100人当たりの男子数を示す人口分析の指標で、値が100であれば男女比は50:50ということになります。 図1は1980年以降の東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の転入超過数とその性比を示しています。ちょうど三大都市圏の中で東京圏だけが転入超過になり、人口移動による人口の東京圏一極集中傾向が明瞭になる時期です。 まず1980年代の転入超過の拡大を見てみましょう。 これはバブル経済による好景気が引き起こしたもので、その性比は120~160と高い水準にあることがわかります。1990年代前半はバブル崩壊の影響を受け、東京圏全体で転出超過となりました。その後、1990年代後半から再び転入超過が拡大していきますが、1998年以降の転入超過性比は100程度を維持しています。リーマンショックの影響を受けて一時的に転入超過は縮小しますが、それと同時期に性比はさらに低下しました。2010年以降は70~80程度になっています。 バブル経済期とバブル崩壊後を比較すると、東京圏の転入超過は概ね同規模ですが、その性別構造が大きく変わっていることがわかります。人口移動の結果として増加する人口、すなわち人口の社会増加は、男性が多い状況から女性が多い状況に変化しました。社会増加の女性化が進んだということです。 1980年代のバブル経済期には、銀行・保険・不動産などの産業や専門職の雇用が増えました。当時は大学進学率の男女差がまだ大きく、こうした職種を担う高度人材は男性に偏っている時代でした。また同時に旺盛な建設需要による求人も多くあり、これらの職種が男性に親和性が高いということもあって、1980年代の転入超過は男性の方が多くなっていたと考えられます。 バブル経済期の好景気は男性の人口移動に結びつきやすいものであったと言えますが、翻って1990年代後半以降の転入超過の拡大を見ると、バブル経済期ほど明確な好景気に支えられているようには見えません。性比の低下が示すように女性の社会増加が拡大したわけですが、そこにはどのような変化があったのでしょうか。