時代の試練に耐える音楽を――「落ちこぼれ」から歩んできた山下達郎の半世紀
夢を追う若い人たちに何を伝えるか
11年ぶりとなる最新アルバムには「人力飛行機」という曲が収録されている。「ペダルを踏んで 空を飛ぶんだ 金も権力(ちから)も 今はないけど」「夢も追えずに 生きて行けるかよ」と歌い、夢を追う人の背中を押す。なぜ今、この曲を書いたのだろうか。 「『人力飛行機』は、無一物の若者が、さあどうやって上に上がっていこうかという歌です。夢なんていらないか?といったら、そんなことないわけですよ。だけど歌の文句のように『夢は必ずかなう』なんてことも、安直にはとても言えない。教育で重要なのは、かなうことばっかり夢想させるんじゃなく、失敗した時にどうするかを教えること。能力とか才能は、全員が同じじゃない。勝ち負けではなく、その人の身の丈に対する充足を、哲学的、倫理的に教えないと。そうじゃないと、勝者と敗者が明確化した場合、敗者が勝者に怨念を抱いたりする。逆に勝者がそれを怖がったりもする。そういうのは昔からあるんだけど、今はSNSの匿名性の中ですさまじく増幅されている感がありますよね。気の弱い人だと、ネットでたたかれて、『私は才能ないからやめます』みたいになったりする」 「『人力飛行機』は最初の一歩の歌で、本当はその先にあるものも考えないといけないんですが、歌はそこまでやるとクドくなるので。口幅ったくいえばフィロソフィーというか、そういうものの反映は、なるべくきれいにやりたい」
若い音楽家への思いも込められている。 「若い人が音楽表現をどうやっていくのか。この年になると引っ張り上げる責任を感じるので。僕らは若い頃、音楽表現を貫徹することに関しては、わりと恵まれた環境でやってこられた。今の若い世代が自由にできているかというと、かなり疑問があってね。音楽表現をすることより、しばしば名声や金もうけが優先される。音楽でお金がもうかる時代が続いて、特に90年代の残滓がまだある。でも現実にはここ10年ぐらい、次第に苦しい時代になってきています」 「僕も年なんで、あと、いまだに自分のことで精いっぱいなので(笑)、そんなに深くは関われないけれど、若い才能をどうすくい上げて、チャンスを与えるか。それはやっぱり大人の役目だと思う。一昔前のジジイみたいに『いまどきの若いモンは』なんて説教は決してたれたくない。彼らを励ましたり、叱咤したり、できることをやりたい」