時代の試練に耐える音楽を――「落ちこぼれ」から歩んできた山下達郎の半世紀
「明るくやらないと、駄目でしょ」
リスナーに向けて、地道に音楽を届けてきた。今年も全国津々浦々のホールを回り、24都市で47公演を開催する。間もなく30周年を迎えるラジオ番組「山下達郎サンデー・ソングブック」では、個人のレコードコレクションを使い、選曲から構成まで手がける。 「『あれは俺のやりたかったことじゃない』と言って、ヒット曲を歌わない人って多いんですよね。ベストヒット=自分のベストソングじゃないんでしょう。お客さんはそれが聴きたくても、ライブでやってくれない。逆にマニアと呼ばれる人々はヒット曲を嫌う。でも、私は誰が何と言おうと、『クリスマス・イブ』はやめません。夏でもやります。だって、それを聴きに来てくれるお客さんがいるんだもの」 「僕のビジネスパートナーは海外進出しようと何度も言ってましたけど、僕はずっと拒否し続けてきた。90年代の頭ぐらいには、ブライアン・ウィルソンとコラボやらないかとか、いろんな提案もあった。でも、興味がない。僕はドメスティックな人間なんで、ハワイとか香港とかマレーシアに行く暇があったら、山形とか秋田のほうがいい。そこで真面目に働いている人々のために、僕は音楽を作ってきたので」
ライブでは、「お互い、かっこよく年を取っていきましょう」と観客に呼びかける。新作アルバムに付けたタイトルは『SOFTLY』。「もう来年古希なので、人間が丸くなってきたから」と冗談めかすが、「動乱の時代を音楽で優しく包み込みたい」という思いがある。 「人類の歴史が変わるファクターは3つあるといわれているんですね。パンデミック、自然災害、戦争。今、同時に起こっている。20代、30代だったら、もうちょっと違うやり方をするけれども、47年間のポリシーみたいなものがある。リーマン・ショックの頃にはライブのお客さんに焦燥感のようなものが見えたし、東日本大震災の後も、とてつもない緊張感があった。今回、あんまりネガティブな作品は入れないようにしようと。ポップカルチャーは人の幸福に寄与するものなので。アジテーションとかアンチテーゼは世の中が平和じゃないとできないんですよ」 「大切なのは平常心でいること。僕、大きなパニックに強いんですよ。足つったとか、そういう小さいのには弱いけど(笑)。朝起きて、冗談言って、歌って……そういう人は生き残るって、アウシュビッツから帰還して『夜と霧』を書いたヴィクトール・フランクルが言っている。いろいろあっても、春が来て花は咲くしね。雨は降るし、空は変わらない。明るくやらないと、駄目でしょ」 山下達郎(やました・たつろう) 1953年生まれ、東京都出身。最新アルバム『SOFTLY』が6月22日発売。3年ぶりのホールツアーを開催中。https://tatsurosoftly.com 聞き手:能地祐子 構成:塚原沙耶 ヘアメイク:COCO(関川事務所)