弁護士まで加担して「法律の抜け穴」を研究し尽くす”地面師”集団…なかなか根絶やしにできない「闇の住人」たちの実態に迫る
事件化しないよう計算されていた
土地の名義変更を知った逗子の実母が、警察に訴え出たという。そして当の息子である逗子自身も一度は逮捕された。警察が捜査を進めていくと、資金を出したマンションデベロッパーと地面師たちの接点も浮かんだ。ところが、事件はすんなりとはいかなかった。逗子が改めて告白する。 「警察は、被害者のはずのマンションデベロッパーが、なかばからくりを承知の上で金を振り込んだのではないか、と疑い始めたのです。本当なら土地は1億円近くする。マンション業者はそれよりずいぶん安い半値以下の数千万円で手に入れていることになる。つまり、業者もグルで息子に頼んでスキームを組んだのではないか。警察はそう考えたのです。おまけに、そのマンションデベロッパーには、広域暴力団とのつながりまであって、調べると、他の地面師事件でも何度か被害者になっている。こうなると、みなが共犯に見えなくもありません」 たしかに登場する関係者たちが、そろって胡散臭い。加害者と被害者の線引きが難しく、警察は利害が入り乱れた複雑な人間関係を解明しなければならなくなる。有り体にいえば、警察にとって非常に面倒な事件捜査なのである。 こうして結局、資産家の息子が絡んだこの一件は、刑事事件として立件されなかった。逗子は、さすがに決まりが悪そうな素振りでこうつぶやいた。 「地面師たちにとっては、ハナから身内を引き入れておけば、事件化しないという計算が働いていたのでしょうね。いざとなったら自分の両親にマンションデベロッパーへの借金の肩代わりをさせるくらいの感覚だったのかもしれません。けど、母親が警察に訴え出たので、もとに戻さなければ彼らも、業者もやばいことになるかもしれない。それで計算が狂ったのかもしれない」
2ケタも3ケタも違う
融通した金が返ってこなければマンションデベロッパーが損をする羽目になる。しかし、もともと一蓮托生なので、ほかの案件で穴埋めし、折り合いがついたという。警察もそれ以上は追及せず、地面師たちは何ごともなかったかのように次の仕事にとりかかったという。逗子は言った。 「結局、一連の取引そのものをなかったことにする登記上の錯誤扱いにし、土地は元に戻りました。そのうえで警察が母に『出されている被害届はどうされますか』と尋ね、届を取り下げました。それで、何もなかったことになっています」 地面師集団は、弁護士や司法書士がそこに加担し、法の網からすり抜ける術を研究し尽くす。そのうえで、高値の土地持ちを狙い、億単位の資産をかすめ取る。彼らにとって、被害額が数十万からせいぜい数百万のオレオレ詐欺とは2ケタも3ケタも違う、いかにも効率のいい仕事だ。そんな闇の住人たちは、なかなか根絶やしにできない。 『「あなた本当は田中さんじゃないよね」…“地面師詐欺”に協力した「弁護士」が突如裏切って“なりすまし役”を問い詰めたワケ』へ続く
森 功(ジャーナリスト)