知的障害がある受刑者の社会復帰へ、社福が支える「長崎モデル」成果…7回服役の男性「もう戻りたくない」
知的障害のある受刑者の社会復帰支援に向けて、長崎刑務所(長崎県諫早市)が取り組むモデル事業が効果を上げている。国内の刑務所で唯一、復帰支援の専門部署が置かれ、地元に障害者の就労支援に取り組む社会福祉法人があることから、約2年前に開始。法務省などが今月まとめた中間報告では、居住先の確保などで「一定の成果」が得られたと分析しており、全国の刑務所へ拡大することを検討する。(上山敬之)
開始から2年
モデル事業は、知的障害があり、刑務所への入所を繰り返す受刑者を対象に、自治体や民間と連携して居住先の支援や本人の意識改善を図ることを目的に、2022年6月から始まった。
事業を担うのは、19年4月に同刑務所に設置された「社会復帰支援部門」。障害者の就労支援や更生保護施設の運営に取り組んでいる社会福祉法人「南高愛隣(なんこうあいりん)会」(諫早市)に業務の一部を委託し、障害の程度に応じたプログラムを実施している。
絵画などによる感情表現や、集団での農園芸作業を通して対人関係の築き方と協調性を学ぶプログラムなどが用意されているほか、刑務作業についていけない受刑者の練習機会も設けている。社会に出てからの支援の求め方や金銭管理、盗みを踏みとどまることを学ぶ「犯罪防止学習」は全員が受講する。
「全国に拡大」
現在、プログラムを受講している受刑者は、福岡矯正管区内の刑務所から長崎刑務所に集められた約30人(定員50人)。多くは生活苦を理由に万引きなどの窃盗罪で服役し、入所と出所を繰り返している。
受講する男性受刑者(50歳代)は読売新聞の取材に「これまでの服役では、ここまでしてもらえなかった」とこぼした。万引きや住居侵入などで7回目の服役。軽度の知的障害があり、言葉での表現や金銭の管理が苦手だという。プログラムでは出所した後に支援を求める方法も学び、「もう刑務所には戻りたくない」と語った。
長崎刑務所の職員の中には作業療法士や公認心理師の有資格者もおり、受刑者の出所までに居住予定のグループホームなどの支援者や地域生活定着支援センターなどを交え、社会復帰後の福祉支援などを決める。支援が受けやすくなる療育手帳の取得手続きを進めるケースもあるという。