1500年前から続く長崎県・対馬の養蜂「対馬のハチミツは薬用と言っても過言ではない」その理由は?
#308 Tsushima対馬(長崎県)/第2回
沖縄本島と北方領土を除けば、日本で3番目に大きな国境の島、対馬。古くから大陸に向けて扉を開き、交流や交易が盛んだったことから、この地には新しい文化がいち早く届いたことでしょう。 【画像】hotel jinに置いてあった蜂洞。伝統的なスタイルのハチの巣箱です。 その一方で、島の9割が山のため、陸上の移動は難あり。文化が素早く伝播するというより、じっくりと島内で温められていたのでしょうか。たとえば食文化に昔ながらのものも多いとか。ニホンミツバチの養蜂も、そのひとつです。
超希少なハチミツ、対州そば…古くから守られてきた対馬の食文化をひもとく
江戸時代の書物によると、対馬では養蜂が1500年も前から行われているとか。ハチミツは江戸時代の将軍や朝鮮からの通信使をもてなすために献上されていたそう。今でも正月に餅につけて食べるなど、特別なごちそうです。 対馬の山道を車で走っていると、奇妙な丸太を見かけることがあります。下の方に口のような穴が開けられていて、ちょっと人の顔のようにも見えます。実は、これがニホンミツバチの巣箱で、“蜂洞(はちどう)”と呼ばれるもの。見るからに何か“いわれ”がありそうな、独特なスタイルです。そこでハチ名人の扇 米稔(おうぎ よねとし)さんに話をうかがいました。 電気工事業だった扇さんは、30歳から蜂飼いをはじめ、それから50年近くハチと関わっています。ニホンミツバチはおとなしい性格で、ペットとしても飼えるとか⁉ 平成の頃の大学教授の調査では島内に4000本の蜂洞があり、養蜂を行っている人は1000人を数えたそう。 セイヨウミツバチのハチミツはレンゲや蕎麦など花ごとに集める“単花蜜”。花畑に巣箱を置いて、一気に集めて、採蜜を行います。それに対して対馬のハチミツは“百花蜜”。ニホンミツバチはいろんな花の蜜を少しずつ集めてきます。ちょっと、おっとりとした性格のもよう。「長く(養蜂を)やっていると、今はサカキが全盛だなとか、どの花が咲いているか、だいたいわかっている」と、扇さん。
「対馬のハチミツは薬用と言っても、過言ではない」その理由は?
ニホンミツバチの採蜜は1年に一度のみ。対馬では冬ごもりをする前の9月頃に行います。それでも蜂洞の中の蜜を全部は取らず、越冬のために残しておくそう。 蜂洞は丸太をくりぬいた空洞で、巣が落ちないように十文字に交わした竹ひごを何段か重ねた造り。この丸洞から採蜜をするとなると、上から蜜をすくうか、チェーンソーで丸太を切断するか。そこで扇さんは考えました。 「対馬の伝統を崩したのは、私。丸洞ではなく、重箱型を作りました。これなら、箱と箱をガムテープで固定してあるだけなので、チェーンソーはいらない。とんとんと叩いて、“入っとんねー”と確認して、入っているところを採ればいい」 ニホンミツバチのハチミツは採れる量が少ないため、希少価値が高く、高価。スプーンでひと匙、口にしてみると、雑味のない奥深い味わい。甘露、とでもいうのでしょうか。 そんな扇さんにとって、忘れられない一文があるといいます(書いてあった本はどこかへ行ってしまったけれど)。「対馬のハチミツは薬用と言っても、過言ではない」。嗜好品を超えて、薬にもなるハチミツ。対馬の人々にとって、暮らしに欠かせない名産品です。