「強盗だ!」は「Go to a door!」? 前代未聞、豪州男「空耳」裁判の行方 法廷から
■「火災から逃がそうと」
検察、弁護側双方の食い違いが最高潮に達するのはここからだ。
検察側は、男性と鉢合わせた被告は「強盗だ!」「金はどこだ!」と、強盗事件で使われる典型的なフレーズを発した、と主張。男性も証人尋問でその旨を証言し、聞こえた言葉は「日本語で、英語ではなかった」と振り返った。
一方、弁護側は、被告は4年3月に来日しており「強盗」という日本語すら知らなかったと主張。「強盗だ!」は「Go to a door(ゴー ツー ア ドア)!」、「金はどこだ?」は「Can you walk(キャン ユー ウォーク)?」だったと訴えた。
火災の危険から逃れさせるために「ドアに向かえ」と叫び、逃げられるかを確かめるために「歩けるか?」と尋ねた、という流れだ。
■「a」と「the」の違い
ただ、弁護側の主張には疑念も残る。
通常、「ドアに向かえ」と英語で言う場合、「一般的なドア」ではなく、「特定のドア」に向かうことを指す。文法的に言えば、ドアに付く冠詞は「a」ではなく「the」だ。
弁護側は、その点も踏まえて被告に質問。被告は「ドアの場所を把握しておらず、一般論としてドアの方へ行って、という意味だった」と説明した。口にしたのは、あくまで「強盗だ」に聞こえる可能性があった「Go to 『a』 door」だった、との主張だ。
今月10日の被告人質問でも、〝空耳〟は主要なテーマとなった。
「何と言ったんですか」。検察側が通訳を介して改めて被告に問いかけると、被告は英語で「Go to a door」と文言を再現。ただ記者が聞いた限り、その発音は日本語の「強盗だ」にそっくり、と言い切れるものでもなかった。
検察側は、被告が日本語を勉強しており、勤務先でも同僚と日本語を使っていたことを明らかにしたほか、当日の行動について「火災の危険を知らせたいなら、玄関のドアベルを鳴らすべきだったのでは」と追及。
被告は「当時は緊急事態だと思い、男性を助けることしか頭になかった。感謝してくれると思った」などと弁解した。