小惑星の地球への衝突を核爆弾で防ぐ妙案が発表される、ただし爆破はせず、どういうこと?
ダイヤモンドも簡単に溶かせる「Zマシン」
研究者チームが使ったのは、サンディア国立研究所の核融合実験装置である「Zマシン」だ。この装置は、強力な磁場によって高温・高圧状態を作り出し、強力なX線を発生できる。ダイヤモンドも簡単に溶かせるほどの強さだ。 核爆発による軌道変更モデルでは、隕石に見られる2つの鉱物を標的とした。爪のサイズほどの石英と溶融シリカのガラス片だ。マシンの片方の端で、特殊な技術を使ってこれら鉱物を真空中に一瞬浮かせ、大量のX線を放射した。これが宇宙での核爆発のシミュレーションだ。 結果、標的の表面が蒸発して超音速の噴流が発生し、固体の標的が時速約250キロメートルの速度で押し戻された。実際の隕石に対して換算すると、直径4キロメートルの小惑星でも、数年の時間的猶予があれば、徐々に軌道を変えて地球衝突を回避できる、というのが研究チームの推定だ。 DARTなどのキネティック・インパクターによるモデルの精度を上げるため、実験室で弾道学を用いるのは割と一般的だ。しかし、今回の実験装置は、X線による小惑星軌道変更技術を検証する斬新な手法だ。「研究チームは今回、真の創造性を発揮した」と、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所の物理学者であるパトリック・キング氏は語っている。同氏は、今回の研究には関与していない。
世界を救う手段になりうる核
ただし、Zマシンの設定にも限界はある。小さくした標的は、小惑星の真の姿をかなり単純化しており、実際の小惑星の複雑な地質学的組成や、小惑星ごとに大きく異なる内部構造の影響まではわからない。「岩石や隕石のように複数の鉱物で構成される物質だとどのような挙動になるのか、非常に興味があります」と、スティクル氏は言う。 核爆弾が、小惑星の軌道を十分な精度で変化させられるのかという疑問も残る。また、実際に衝突が差し迫ったとき、小惑星がなにかのはずみに粉々になって広く飛び散ってしまう懸念は常にある。しかし、全体的に見れば、今回の研究は地球防衛にとって歓迎できるニュースだ。 「実験室での結果もコンピューターシミュレーションの結果も、核爆発装置が小惑星の軌道を変えられることを十分に示していると思います」と、アグルーサ氏は言う。 「(核爆発装置が)絶対的な解決策だ、と言いたいわけではありません」とキング氏は言う。いかなる状況であっても、それが地球を守るためであっても、核爆発装置の使用は危険をはらむ。「(核爆発装置を)使用するという選択は、重大な決断であり、取り返しのつかない事態を生むかもしれません」。しかし、とりわけ残された時間が少ない場合に、核爆発は世界を救う手段になりうるというエビデンスが、今回の研究でまた1つ積み上がった。 「大きな小惑星の地球衝突はそう頻繁に起こることではないとわかれば、人は安心します」とムーア氏は言う。「この天災に備える方法があることがわかれば、さらにもっと安心です」
文=Robin George Andrews/訳=夏村貴子