小惑星の地球への衝突を核爆弾で防ぐ妙案が発表される、ただし爆破はせず、どういうこと?
爆破は「一か八か」の作戦
時間的に切羽詰まった状況では、小惑星を破壊する方法が選ばれるかもしれない。つまり、小惑星を粉々に破壊し、小さなかけらにする。 そうすれば大半は地球に降り注ぐことはない。あるいは大気圏で跡形もなく燃え尽きてしまうだろう。衝突まで2カ月以上あれば、直径100メートル級の小惑星(1都市を壊滅できるサイズ)は、1メガトンの爆弾を使えばほぼ完全に蒸発させられるというコンピューターシミュレーションの結果もある。 ただし、これには小惑星という1個の砲弾を散弾銃の弾のように変えて広範囲に飛び散らせてしまう危険性もある。「一か八か」の作戦だ。 理想は小惑星の軌道変更だ。そのためには、小惑星のすぐ近くで核爆弾を爆発させて、X線やガンマ線、中性子線といった放射線を放出させる。これらの放射線は小惑星の片面に吸収されて、岩石の一部が瞬時に蒸発して噴流が発生し、小惑星が逆方向へ押しやられる、という理屈だ。 似た現象はDARTミッションでも起こった。探査機が小惑星ディモルフォス(緩やかに結びついた石の塊)に衝突したとき、その衝撃でえぐれて破片が大量に飛び散り、ディモルフォスは推進力を得て軌道が大きく変わった。これは、DART型宇宙船3.6機分が衝突した衝撃に相当する。つまり華奢な宇宙船が、自身の重さをはるかに上回る強さのパンチを食らわせた形だ。 核爆弾はDARTなどよりもさらに強力な打撃を与えることができる。しかし、入手可能な最強レベルの核爆弾の使用は、必ずしも最善策ではない。思わぬ崩壊の恐れがあるからだ。 「軌道変更に必要なエネルギー量をほんの少し多く見積もってしまったために、無数の放射性物質の破片が地球に降り注いでくる様子を想像してみてください」と、スイス、ベルン大学の惑星科学者であるサビーナ・ラドゥカン氏は語る。同氏は今回の研究には関与していない。 核爆発装置を使った地球防衛策を宇宙で検証するのは非現実的だ。失敗すれば放射性物質を大気中にまき散らしてしまう。それに、いかなる理由であろうとも、核弾頭を宇宙空間に配置しようとする国があれば、かつてない政治的緊張が生じるだろう。 核兵器による実験や高エネルギー実験施設(ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設など)からのデータ、および最先端のコンピューターシミュレーションで得られたデータからは、幸い、核爆弾による軌道変更作戦は、きめ細かな調整ができれば「小惑星の地球衝突を防ぐ上で非常に効果的である可能性が高い」(前述のブラック・サイアル氏)ことが強く示唆されている。同氏は今回の研究には関与していない。 研究者チームはこの理論の検証を望んだ。そして今回、実際に検証が行われた。