小惑星の地球への衝突を核爆弾で防ぐ妙案が発表される、ただし爆破はせず、どういうこと?
巨大だったり発見が遅れたりした小惑星にも、「今後に非常に期待できる結果」
都市をひとつ壊滅させられるほどの小惑星が地球に向かっているとする。幸い、何年も前からわかっているのであれば、大惨事を防ぐ方法を科学者はすでに知っている。探査機を小惑星に衝突させて、地球に向かう軌道をずらす方法だ。 ギャラリー:地球にぶつかったら大変な天体12選 ただし、小惑星が大型だったり、あるいは小型であっても発見が遅れてしまったりしたら、この方法がうまくいくとは限らない。では、どうすればいいのか? その有力な解決策を示した研究が、9月24日付けで学術誌「Nature Physics」に発表された。人類の文明を破壊するほどの大きな小惑星であっても、核爆発で生じるX線で小惑星の軌道をずらして地球への激突を回避できるかもしれない。 研究では、過去最高レベルの強力なX線を発生させる装置を使い、小惑星を模した標的に照射した。すると、表面の物質が瞬時に蒸発して蒸気が噴出し、標的はロケットと化して後方に飛んだという。「大成功だとすぐに思いました」と語るのは、米ニューメキシコ州のサンディア国立研究所の化学エンジニアで、論文の筆頭著者のネイサン・ムーア氏だ。 今回の研究は実験室環境で行われたため、核爆発を使う小惑星軌道変更ミッションの完全なシミュレーションではない。だが、スケールダウンしたモデルとはいえ、宇宙で実際に核爆発を起こさずに技術を検証するよい方法ではある。 「今後に非常に期待できる結果です」と、米メリーランド州にあるジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所で超高速衝突を研究する物理学者のアンジェラ・スティクル氏は述べている。同氏はこの研究には関与していない。
実証済みの探査機には限界が
天文学者が、地球に向かってくる危険なサイズの小惑星の存在に気づいたとしよう。 サイズがある程度小さく、その到来が少なくとも10年先のことであれば、いわゆる「キネティック・インパクター」と呼ばれる探査機を使える。すでに実証済みのDARTミッションが前提とする条件はこれだ。 NASAは2022年9月、自動車ほどの大きさの半自律式無人探査機を、(無害な)直径約170メートルの小惑星「ディモルフォス」に時速約2万2500キロメートルで衝突させ、軌道を大きく変えるのに成功した。 しかし、衝突まで10年もない場合、あるいは小惑星が1国を壊滅させるほど大きいとしたら、DARTのような方法では人類は救えないかもしれない。巨大な小惑星なら、衝突まで時間的余裕が十分あったとしても、「キネティック・インパクターを1機、あるいは仮に何十機も揃えたとしても、地球衝突は回避できないかもしれません」と、米カリフォルニア州ローレンス・リバモア国立研究所の惑星防衛研究者であるメーガン・ブラック・サイアル氏は言う。 対して、核弾頭であれば、地球を救うために必要となる莫大な量のエネルギーと運動量を得られるかもしれない。「小惑星の軌道変更を物理学的に考えた場合、実現可能な選択肢はそれしかありません」と、仏コート・ダジュール天文台の惑星科学者ハリソン・アグルーサ氏は語る。同氏は今回の研究には関与していない。