監督が語る『ライオン・キング:ムファサ』「自分の道は、自ら決めなければならない」
ディズニー最新作『ライオン・キング:ムファサ』が公開されている。本作の監督を手がけたのは、アカデミー作品賞受賞作『ムーンライト』や『ビール・ストリートの恋人たち』を手がけたバリー・ジェンキンスだ。彼は本作の脚本を読み、そこに書かれているに内容にとても驚いたという。なぜ彼は本作を手がけることになったのか? ジェンキンス監督に話を聞いた。 【画像】その他の写真 バリー・ジェンキンス監督の名を一躍、有名にしたのは2016年公開の映画『ムーンライト』だろう。主人公シャロンの幼少期から大人になるまでを描いた作品で、シャロンはあるコミュニティの下で育ち、時にそこで暮らす人々から影響を受け、時にそれをはねのけて自身の生きる道を探っていく。撮影監督ジェームズ・ラクストンが手がけたビジュアル、ジェンキンス監督の繊細な語り口も高く評価され、その年の映画賞で数多くの栄冠に輝いた。 そんな彼の元に『ライオン・キング:ムファサ』の脚本が届いた。名作『ライオン・キング』で主人公シンバの父だった偉大な王ムファサの若い頃を描いた物語だ。 「私はこの脚本を読んで、この物語に込められたエネルギーの大きさと、物語に対するアプローチの豊かさ・複雑さに魅了されました。この物語はパワフルで、幅広い人々を魅了するエンターテイメント性の高い映画になると思いましたし、この映画が現代に公開されることは意義のあることだと思えたのです」 本作は『ライオン・キング』の“その後”から始まる。王になったシンバの子キアラはある日、王国の祈祷師ラフィキから今はもうこの世にいないキアラの祖父にして偉大な王ムファサの若い頃の話を聞く。 幼い頃、ムファサは両親とはなればなれになってしまい、雨で急激に増水した川で溺れるも、同年代のライオン、タカに命を助けられる。王の子であるタカと孤児のムファサは兄弟の絆で結ばれ、共に成長する。しかし、凶悪なライオン、キロスの出現によって平穏は日々は終わり、ムファサとタカは理想の地を求めて壮大な冒険に旅立つ。 劇中に登場するムファサは、『ライオン・キング』に登場する威厳ある王の片鱗がまったくない若者だ。本作のムファサは、王の血を引くものが王になり、強い者が支配者になっていく群れの中で育つが、驚くほど群れの価値観や昔ながらの考えとは距離を置いている。ムファサは王の座も権力も興味がなく、自由に生きていきたいと願っており、迷ったり、葛藤しながら、育ったコミュニティから時に影響を受け、時にそれをはねのけて自身の生きる道を探っていく。そう、『ムーンライト』の主人公シャロンと同じように。 「そうなんです! まったく同感です! 私も脚本を読んだ時に本当に驚きましたよ! 『ムーンライト』の主人公の物語と、『…ムファサ』の主人公の物語は、道のりだけ取り出すと、どちらがどちらの物語なのかわからないぐらい似ているんです。“水”と関係のある体験が、主人公の人生を大きく左右する、という展開も含めて。 『ムーンライト』も本作も重要なのは“生きていく上で、自分自身の価値観は、自ら決めなければならない”ということです。私が本作を監督することで『ムーンライト』で描いたテーマをより深く掘り下げ、より多くの方と分かち合うことができるのではないかと考えました。 これまで描かれてきたムファサとタカ(のちにスカーと呼ばれる)は“良い王と悪いヤツ”という印象だったと思います。本作ではふたりの幼い頃から描くことができますから、ムファサとタカがコミュニティから何を学んだのか、どんなレッスンを受けたのか、あるいは何を学びながらあえて“従わなかったのか”が描けるのです。さらに本作では“子育て”がキャラクターの形成にどう影響するのかも描かれています。ムファサはタカの母親が“義理の母”的な存在になったことで良い結果を生みます。一方、タカは王である実父の良くない子育ての影響を受けてしまうのです。 本作ではあるコミュニティの中で育ち、教育を受け、影響を受ける中で自分なりの価値観を形成していく過程を描くことができました。この物語を小さな子どもたちに観てもらえることが私にとって非常に重要でした」