危機管理の失敗で「高島屋」は崩れたケーキの代名詞になる。(中嶋よしふみ・FP ウェブメディア編集長)
■レ・サンスのオーナーが「タブー」を口にした理由。
高島屋は謝罪と返金と交換で責任を全て果たしたと考えているのだろう。しかしこの騒動に巻き込まれた製造工場、ヤマト運輸、そして監修をしたレ・サンスにとっては原因が不明のままでは風評被害が発生し、新たな被害者となってしまう。 特に名前を全面に出されたレ・サンスのオーナーは取材に対して以下のように回答している。 「約800件もケーキが破損している。原因が分からないのはおかしい。こんな幕引きでいいのか。買った人たちは納得できない。関係者が主張する通りであれば、あのような異常なつぶれ方はしない」 「うちみたいな店は言われっぱなしではつぶれてしまう。『続けてほしい』と顧客に言われるけど、このままでは来年できるかも分からない」 (ケーキ監修「レ・サンス」シェフ「期待裏切り、眠れない」 高島屋に「幕引きせず原因特定を」産経新聞 2023/12/27)。 レサンスには苦情や問い合わせ、そしてイタズラ電話まで殺到しているという。 通常、ビジネスにおいて取引先の批判はマナー違反であり、ましてやメディアの取材でそれを口にすることはタブーと言ってもいい。それにも関わらずこういった発言をせざるを得ない理由は、コメントにある通り黙っていたらお店が潰れてしまいかねないからだろう。
■原因の絞り込みは可能。
ケーキに限らず、食品分野では有名シェフやレストランとのコラボ商品は珍しくない。スーパーに行けばコラボ商品は無数にある。 他分野でも、例えばユニクロと有名デザイナーのコラボレーションは大成功を収めている。 ファブレスと言って自社で工場を持たずに生産をすることも当たり前のように行われている。アップルは工場を持たず、iPhoneがフォックスコンという台湾企業の工場で生産されていることは有名な話だ。こういったやり方はOEM(相手先ブランド製造)と言って製造業ではもはや珍しい話ではない。 コラボやOEMとなれば関わる企業の数も増える。冷凍ケーキもこのような形で作られた事で複数の企業が密接に関係し、配送会社も疑われている。 冷凍ケーキに関わった企業は、高島屋と製造工場、ヤマト運輸、レ・サンスと主に四社だが、一番小さいレ・サンスが一番大きなダメージを受けている。 高島屋による謝罪会見では、原因の特定が困難であるとされたが、ある程度絞り混むことは可能なはずだ。ケーキが顧客に届くまでの工程を大きく分ければ以下の5つになる。 企画、製造、出荷、集荷、配送 この中で真っ先に消えるのは配送だ。各家庭に届ける段階で解けたのなら、冷凍ケーキ以外に他社の商品でも多数の被害報告がなされているはずだが、現状でその様な話はない。高島屋の冷凍ケーキにだけ被害が集中して発生した理由としてまず考えられない。 一つや二つくらいはそういった事例もあったかもしれないが、これだけ多数の被害を説明するには無理がある。あるとすれば配送より前、大量のケーキをヤマト運輸が受け取った「集荷」の段階ならばあり得るかもしれないが、現状では冷凍庫の温度に問題は無いという。 昨年もほぼ同様のケーキが問題なく届いており、なおかつ五年前から販売しているということで企画(監修)に問題があったことも考えられない。レ・サンスのオーナーは味や形に限らず、配送段階で崩れないように実験も厳密に行っていたと言い、取材に対して以下のように答えている。 「配送の問題、崩れないようにできるか全部実験でやっていた。僕が実験で見ている以上では、上から落とさないとああいうふうにはならない」 (崩れたケーキ 監修シェフ“何度も試した” 製造会社「原因不明」 ヤマト運輸は…(日テレNEWS NNN 2023/12/26) そもそもデコレーションケーキを冷凍して配送するなんて無理があるといった批判も多数あるようだが、それは的はずれということだ。そしてこの話でレ・サンスの企画や監修に問題があって崩れた可能性も消えることになる。