日本のテロ対策は充分なのか? 警戒すべき「国際的紛争が持ち込まれる」可能性
日本でテロを防ぐには「国際と国内の動きを連結させて分析する必要がある」と、国際政治学者の宮坂直史氏は語る。いま政府に求められる対策とは? ※本稿は、『Voice』2024年10月号より、より抜粋・編集した内容をお届けします。
「灰色のサイ」を見抜き、アフガニスタン無視の過去を繰り返すな
将来のテロの脅威はAIのような技術的な付加とは別に、現在の国際テロ情勢からも考えねばならない。経済・金融の危機管理で使われ始めた「灰色のサイ」という言葉がある。遠くに角を立てたサイがこちらを窺っているが、まだ遠いからと思って避難も何もしないでいると、気づいた時にはサイが突進して致命的になるという比喩である。 国際テロの世界でも「灰色のサイ」は徘徊している。アフリカ・サヘル地域、とくにマリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア北部、スーダンでは過激主義勢力が増殖している。 加えて隣接するソマリアも長年、テロ組織「アル・シャバーブ」に蹂躙されている。多くの集団は地域限定での活動だが、ISの支部団体も含まれているように、域外でのテロ組織との連携を容易にして、相互に活性化するのは必至になる。イスラム過激派のイデオロギーに国境はないのだから、かつてのアルカイダのように世界的な脅威をもたらすネットワークに再び成長するシナリオも考えておくべきであろう。 日本の政府は、いま起きている出来事から将来の脅威を予測して前広(まえびろ)に準備するのが苦手である。1990年代には、日本人の死傷者が出る海外テロが相次いだ(世界貿易センタービル爆破、フィリピン航空機内爆破、ルクソール事件、在ケニア米大使館爆破、キルギス誘拐事件など)。 これらの実行犯・組織がアルカイダに関係していたのだが、日本のインテリジェンス活動や政治は、そこを見抜いて対策に活かせなかった。個々の事件を点で見て線でつなげなかった。国際安全保障の観点から当時のアフガニスタンや、そこを根拠地にしていたアルカイダに注目していた日本人はごく小数で、2001年9月の9・11テロで国際テロの脅威に国全体がやっと目覚め、あとは泥縄式に対処していったのだ。 いまのアフリカのテロも、30年前のアフガニスタンと同様にグローバルに見ないと、国際的に大事件が起きてから、あわてふためいて情報収集を始め、対応が後手に回りそうな気配がする。 欧米とロシアで連携を深める極右の動きも等しく見逃せない。2011年にノルウェーで排外主義者のブレイビクが、同国のリベラルな政党に対して大規模なテロを実行した。その際に英文で1500ページもの所感をネットに公開した。世界中で、それを読んで感化された者が次々にテロを起こした。 日本人極右は英語が出来ないから幸いなことに影響を受けなかった。日本の排外主義者は脅迫や妨害のヘイトスピーチ、放火事件までは起こしているが、大量殺傷までは着手していない。 それでも今後はAIを利用し、外国語の壁を低くして国際ネットワークに参加し、外国での極右の動きに反応していくかもしれない。極右・排外主義者の動向は、国際的な動きと国内の動きの双方に関連性がないかと分析する情報活動が新たに求められよう。