1円でも稼ぐ!地獄を見たANAの新戦略
ボーナスなし、年収3割カット~「生き延びるんだ」苦渋の決断
10月1日に行われたANAの内定式。来年4月に入社予定の内定者は624人。そのうち約420人が4年ぶりに採用された客室乗務員だ。 【動画】地獄を見た男が仕掛ける、ANAの“飛ばない”ビジネス
コロナ禍の就職活動を振り返るVTRが流れると、涙が込み上げてくる。「私が就職活動を始める頃には採用活動が再開されているのか、不安がありました」「ずっと客室乗務員になるんだと思いながら、ここまで過ごしてまいりました」と、彼女たちはその気持ちを語った。
ANAに新型コロナウイルスの悪夢が襲ったのは2020年。他府県をまたぐ移動や海外渡航が制限され、フライトはストップ。空港から人が消え、旅客数は激減した。2018年度にグループ全体で約2兆円あった売り上げは、2020年度は約7300億円まで急落。ボーナスはなくなり、社員の年収は3割削減。グループ全社員がどん底を味わった。 だが、ようやく今年、空港に活気が戻ってきた。国内線はコロナ前の9割ほど、国際線も7割程度まで回復している(2023年11月現在)。
羽田空港の第2ターミナルに滑走路を眺めるひとりの男がいた。 「動きがありますよね。飛行機が動いていますし、地上の係員の動きもしっかり見ることができます。本当に空港としての活気が戻ってきたと肌で感じる」と言うのはANAホールディングス社長・芝田浩二(66)だ。グループ全体で4万人以上いる社員たち。コロナ禍が始まった頃、常務取締役だった芝田は社員の雇用を守るために奔走した。 「雇用は守るんだ、そのためにはいろんな手段を取るんだと。そのうちのひとつが出向だったんです。外部からしっかり資金・収入を得てほしいと」(芝田) 苦渋の決断で推し進めたのが、社員たちに出稼ぎに行ってもらうことだった。320もの企業や自治体に協力を依頼、累計2300人が出向した。 「航空事業は社会のインフラですから、なくなることはない。ただ、いつまで我慢するのか読めない、そういう時期でした。出口が見えない苦しさがありました」(芝田) 芝田が社長に就任したのはコロナ禍の真っ只中の2022年4月。飛行機が飛べない中、少しでも収入を増やそうと、さまざまな手を打ってきた。 「生き延びるんだと、最終的にあらゆる手段を尽くして一円でも稼ぐ。それが明日の糧になる」(芝田)