定子さまが残した辞世の歌 「いつも、いつも」とほほえみあった清少納言との絆
「いつも、いつも」と笑いあう二人
水野:でも、ドラマでの定子さまと清少納言のふたりの描かれ方を見ていても、定子さまの遺詠の宛先が清少納言……という説もうなずけます。 ドラマの中では、清少納言がお菓子を差し出し、定子さまが歌を詠み、ふたりでほほ笑むシーンもありましたね。 たらればさん:このお菓子トークは、『新訂 枕草子』二二四段「三条の宮におはしますころ」が元ネタですね。 「三条の宮」とは定子さまが出産のために移住した平生昌邸のことで、『枕草子』における明確な日付けがわかっている(長保二年(西暦1000年)五月五日)最終記事となります。 水野:このときに定子さまが清少納言に贈った歌は……。 「みな人の花や蝶やといそぐ日も 我が心をば君ぞ知りける」 たらればさん:私訳は、「人々が花だ、蝶だと、いそいそと浮かれているこの日(端午の節句)にも、あなただけはわたしの心を分かってくれているのですね」です。 この頃はすでに、中関白家(定子さまの一族)の政治的な凋落が決まりかけていた頃です。泣けますよね……。 水野:ドラマでは、ふたりが「いつも、いつも」と言いながら笑っていましたね。この後の「悲しい運命」と対比しているようでつらかったです。 たらればさん:定子さまと清少納言が声をそろえて笑っているのは、かつてこのフレーズ「いつも、いつも」で笑いあった過去があるからです。 こちらも元ネタがあって、『新訂 枕草子』二一段「清涼殿の丑寅の隅の」に出てくる、古歌「しほの満つ いつもの浦のいつもいつも 君をばふかく 思ふはやわが」(私訳/潮が満ちる、いつもの浦のように、いつもいつもあなたを深く思っている私なのです)です。 定子さまの父・道隆が「しほの満つ いつもの浦のいつもいつも 君をばふかく 頼むはやわが」と、「思う」を「頼む」に変えて、円融帝に詠んだとされています。 水野:それで「いつも、いつも」というフレーズで心が通じ合えるんですね…。 たらればさん:このシーン、高畑充希さん演じる定子さまが、本当に久しぶりに声を出して笑っているんです。 定子さまが声を出して笑えるのは、もう(ファーストサマーウイカさん演じる)清少納言の前だけなんですよ。それがもう泣けて泣けて……。 水野:ふたりだけの大切な時間があったんだろうな……と思います。 枕草子は定子さまのために書かれたものですが、これが後世まで残ってくれて、わたしたちが二人の大切な時間に思いを馳せられることがありがたいなぁと感じました。