「モグモグ音も聞こえる!」18頭のコアラが暮らす動物園 “ユーカリを種から育てる”から始まった、知られざるコアラ飼育40年の歴史
国内7園で100頭を目指す
動物園には「動物を守り、育て、増やす」、種の保存の役割があります。 そのためにも、動物園同士が協力し合い、繁殖を目的とした個体の貸し借りを行います。これを「ブリーディングローン」と言います。同じ動物園内だけで繁殖を進めると、近親交配による弊害が懸念されます。個体を他の飼育園へ移動させることにより、血統更新を図るのが、ブリーディングローンの目的です。平川動物公園では現在6頭のコアラを、ブリーディングローンとして貸し出しており、中にはたくさんの繁殖に貢献している個体もいます。 このブリーディングローンによって生まれた第1子の所有権は平川動物公園、第2子が相手側の園と、原則としての決まりはあるのですが、その時の飼育園の状況により、所有権が変わることもあります。東山動植物園から来園したインディコ(♀)・つくし(♀)も、このブリーディングローンにより貸し出したイシン(♂)の第1子と第3子になります。
国内でコアラを飼う七つの飼育園では、将来的に「100頭のコアラを飼う」という目標があります(2024年9月3日現在で53頭)。何かあったとしても、この100頭でペアリングに取り組めば、遺伝的な多様性を維持しつつ、個体数を確保できるという考えです。今まさに、その目標へ向けて、各飼育園がやれる範囲での繁殖を進めています。 そのためには、メスは可能な限り4歳までにペアリングをさせると、後の子育てがうまくいく、という基準を持っています。もちろん10歳でも子供を産みますが、2~4歳で繁殖経験がない子がいれば、平川動物公園ではその個体を優先させます。兄妹・親子での交配は問題があると言われていますが、いとこの関係であれば迷わずにペアリングさせます。ただ、各飼育園が自由に繁殖させて頭数を増やすのではなく、毎年の繁殖割り当て頭数が決められています。平川動物公園は、2023年度は4頭の割り当てがありました。4頭の子供の繁殖に成功すれば、国内の他の飼育園で何かあった際にも、繁殖が期待できる個体をブリーディングローンで貸し出すなどのフォローができるという考えからです。しかし、これはあくまでも目標であり、守らないといけないわけではありません。逆に面倒を見られる範囲で5頭、6頭と繁殖させることもあります。それは、生まれる子もいれば、亡くなってしまう子も毎年いるからです。 平川動物公園の現在の施設の大きさ、ユーカリの状況からすると20頭は確実に飼育できるキャパシティがあります。だからこそ、目一杯やれるだけの繁殖活動を行い、20頭に達してから、次にどうするかを検討したい考えです。 実は、平川動物公園では、2年前に感染症で4頭のコアラを立て続けに亡くしました。その年、飼育頭数は20頭でしたが、今現在は18頭で、まだその目標頭数に戻せていません。他にも老衰、悪性腫瘍、白血病、糖尿病など、さまざまな理由で急な死を遂げます。生まれる個体がいても亡くなる個体もいるわけで、いつ何が起こるかはわかりません。年齢が合わない、性別に偏りがある等で、繁殖ができなくなる事態が起こると、頭数の盛り返しが困難になります。であれば「種の保存」の役目を果たすため「今できることを、今したい」が、平川動物公園の考えです。 「躊躇していたらタイミングを逃す」ということが常に頭にあり、今月は発情が来ると把握しているのであれば、あとは個体の雰囲気を見て、やるかやらないかを決めるだけ。そこに迷う時間はありません。頭数がいるからこそ「今やろう!」という決断もすぐにできます。