「捜査は1人ではできない」 全国初の暴走動画の摘発手がけた坂口警部補
近畿2府4県の優秀な警察官をたたえる第138回「近畿の警察官」(産経新聞社提唱・和歌山県信用金庫協会など協賛)に、和歌山県警から留置管理課の坂口敏規警部補(58)が選ばれた。勤続33年あまりのうち約13年間交通部門を担い、全国で初めてインターネット上のバイクの暴走動画から容疑者を摘発するなど数々の実績を上げた。表彰式は27日に大阪市天王寺区の大阪国際交流センターで行われる。 和歌山市出身で、大学は山口県内の公立大に進学。就職を考えたときに浮かんだのは、警察官の父親の姿だった。夜間でも電話が鳴ると出かけていく父とは、仕事についてあまり話したことがなかった。それでも気がつけば県警を志望し、平成3年に採用された。 刑事や交通など幅広い部門の経験を積んできた。どの部署でも重視してきたのは仲間とのコミュニケーションだ。「捜査は1人ではできないし、また1人の考えだけではやってはいけないもの。立場に関係なく、お互いに何でも話しやすい雰囲気が大事」との思いからだ。 そんなチーム力が試されることになったのが、交通課係長だった21年に覚知したバイクの暴走事件だ。ネットの動画投稿サイトに投稿された動画が話題となっていた。昼間の時間帯に、高野龍神スカイラインを大型バイクが時速180キロで走る動画だった。少しでも運転を誤れば運転手だけでなく巻き込まれた場合でも命に関わる。「なんとかしなければ。悲惨な事故につながりかねない。抑止のためにも自分たちで摘発につなげたいという気持ちは、捜査するみんなが同じだった」 すぐに車両の特定に取りかかったものの、手掛かりは動画のみ。速度メーターと前方部分が少し見える程度で、運転手は映っていなかった。当時はこのような動画から摘発につなげた例がなく、捜査は手探りで進めるしかなかった。 まず、専門機関で映像の解析を行い、速度や加工がされていないことを確認。さらに映像に映る車両のナンバーなどから当時現場にいた人を割り出していった。暴走していたのはバイクの持ち主ではなかったが、地道に捜査を続け運転手を特定し、摘発へとつなげることができた。「捜査で行き詰まることがあっても、誰かがアイデアを出しながら進むことができた。話しやすいいい雰囲気があった」と振り返る。 表彰を受けるにあたり、「与えられた場所で、よい仲間に恵まれ、協力しながらやってこれたおかげ。私は代表してもらうだけ」とチームワークの大切さと仲間への感謝を述べ穏やかな笑顔を見せた。(小泉一敏)