「手術・診断」なし…広がる性別の自己申告制「セルフID」 ヨーロッパで何が起きているのか?
欧米ではトランスジェンダーの人々が法律上の性別を自身で決定できる権利をさらに認めるため、手術や医師の診断を求めることをやめ、完全な自己申告による性別の変更、いわゆる「セルフID」を認める動きが広がっています。ただこれによって、生物的な性別によって区切られてきた制度に影響は生じないのでしょうか。ヨーロッパではマイノリティーの人権が尊重されるとして歓迎される一方で、混乱も生じています。
■日本でも「手術なしの性別変更」 認める動き
日本では2023年、性別変更に生殖能力をなくす手術を求める「性同一性障害特例法」が最高裁によって「憲法違反」とされました。その後、家庭裁判所では実質的に性別適合手術なしで性別変更を認める判決も出されるようになりました。一方で、医師による「性同一性障害である」の診断が必要などの条件はあり、自由に変更できるわけではありません。
■ドイツで“性別の自己申告制”はじまる
これに対して欧米諸国では、診断を受けずに自己申告による性別の変更を認める「診断なしの性別変更」が広がっています。当事者でつくる国際NGO「トランスジェンダー・ヨーロッパ」によると、現在、ヨーロッパではスペインやフィンランドなど11の国や地域が、申告のみによる性別変更を認めています。 ドイツでは2024年から「性別自己決定法」の施行を開始しました。法改正をけん引し、公聴会で参考人として意見を述べるなどした「トランスジェンダー・ヨーロッパ」の顧問、リヒャルト・ケーラーさんに話を聞きました。ケーラーさんは同法について、診断も裁判もなく、迅速かつ安価で誰にでもアクセスできる「21世紀にふさわしい法律だ」と話します。 ただ、「変更が1年に1回までに制限されていること」や「3か月間の待機期間がある」点で、今回の法改正は不十分であるとも指摘します。 生物的な性別によって区切られてきた「女性専用スペース」をどう扱うかについては、各事業者に任せられています。ケーラーさんは「新しい法律が、自認する性別に応じてスペースを利用する際に法的根拠を与えるものになる」とみています。