FOMC〈大幅利下げ〉で円高が一段落か…今後予測される、米ドル/円の「大きな分岐点」とは【国際金融アナリストが考察】
円安をもたらした背景…円「買われ過ぎ」の反動とは
そもそもその米ドル/円自体この間大きく下落し、短期的な「下がり過ぎ」懸念が強くなっていました。米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は、マイナス10%に近づくと短期的な「下がり過ぎ」が懸念されるのですが、FOMC前はこれがマイナス8%以上に拡大していました(図表4参照)。 もう1つ、週末にかけて米ドル高・円安への戻りが目立つ結果になった要因として、円「買われ過ぎ」の反動が入った可能性が考えられます。 CFTC(米商品先物取引委員会)統計による投機筋の円ポジションは、17日現在で買い越し(米ドル売り越し)が5.6万枚まで拡大していました。過去の実績を見ると、円の買い越しの5万枚以上は「行き過ぎ」圏でした。 それにしても、これまで円買い越しが5万枚以上に拡大したことは何度かあったのですが、そのほとんどは日米政策金利差の「米ドル優位・円劣位」が1%未満といった具合に、円買いにとってあまり気にならないケースでした。 これに対し、足元の日米政策金利差の「米ドル優位・円劣位」は、今回の0.5%といった大幅な米利下げを受けてなお4%を大きく上回る状況に変わりありません(図表5参照)。 このように、金利差からすると不利な円買いポジションだっただけに、その行き過ぎの修正に伴う処分売りも勢いづきやすく、予想以上に大きな円安をもたらした背景だったと考えられます。
今週の注目点…米経済ソフトランディング期待は本物か!?
米ドル/円は、日米金利差と基本的に連動する展開となっています。その上で、先週は金融政策を反映する短期金利差より長期金利差との連動が強まりました。この状況が今後も続くなら、米ドル/円の行方は日米10年債利回り差次第ということになります。 今回のFOMCの大幅利下げを受け、米経済のソフトランディング期待が広がりましたが、それを経済指標の結果などで確認していくことになりそうです。今週は4~6月期の米実質GDP伸び率・確報値やPCEコア・デフレーターなどの発表が予定されています。 また足下、7~9月期の米実質GDP伸び率について、定評のあるアトランタ連銀の経済予測モデル、GDPナウの最新の予想は前期比年率2.9%となっており、米景気の回復が続いているといった見方になっています。 一方で、今回FOMCが大幅利下げに踏み切ったのは、雇用の急速な悪化に対して「ビハインド・ザ・カーブ」、つまり後手に回ることを避ける狙いが強かったとされますので、雇用関連の指標で実際に悪化が示されることになるかにも注意は必要でしょう。 米ドル/円とやや趣を異にするように、ユーロ/米ドルはFOMC後も、年初来のユーロ高値・米ドル安値近辺での展開が続きました。そしてこの動きは、独米金利差の「米ドル優位・ユーロ劣位」縮小でも基本的に正当化されるものでした(図表6参照)。 以上の動きは、これまで米ドル安を主導した対円の動きが一段落する一方で、むしろ円以外の通貨に対して米ドル全面安が広がり始めた兆しとしても、注目されるところでしょう。 9月に入ってから一本調子で展開した米ドル安・円高は、先週のFOMCで一段落した可能性が高く、目先的には米ドル高・円安への戻りを試す展開が続きそうです。その場合は、9月これまでの米ドル高値147円を超えられるかが大きな分岐点になるでしょう。一方で、円以外の通貨に対しては逆に米ドル安が広がる兆しもあります。 以上を踏まえ、今週の米ドル/円の予想レンジは141.5~146.5円で想定します。 吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長 ※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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