銀シャリ・橋本直が細かく語るお笑い論「ツッコミって、怒りを鎮めるレクイエムです」
ラテ欄をくまなく読むと、面白い番組が”におい”ます
──お笑い好きになったきっかけとしては、橋本さんは、テレビが大好きだったんですよね。お笑いはもちろん、ドラマ、バラエティも大好きだった。お母さん、お祖父さんもテレビ大好で、テレビっ孫(ソン)だったとも書かれています。新聞のラテ欄をくまなく読んで、面白い番組を探していた、というエピソード、「細かいところが気になる」橋本さんらしいなと感じました。 橋本:大学生のとき、めっちゃヒマやったんで、明け方まで起きてたんです。で、家のポストに新聞が配達されたときの「がしゃん」っていう音を聞くと、すぐに取りに行って、ラテ欄をチェックしていました。当時はネットニュースもないし、お金がなくてテレビ雑誌を買うのももったいないから、ラテ欄だけが頼りやったんです。 深夜帯に、一回だけ放送されるような、謎な番組がありますよね。そういう掘り出しもののような番組を、ラテ欄の一行とかから探すのが楽しかった。3文字、4文字の情報からでも、におうんです。これ、おもろそうやな、っていうのが。
──テレビ好きの橋本さんは、テレビが元気がなくなってきた最近の状況をどう感じていますか? 橋本:時代の移り変わりはしようがないと思ってます。その時代、その時代の輝きはあると思んで。ただ、本音を言えば、自分がワクワクして見ていた、「昭和のブラウン管」に入ってみたかったですね。タモリさん、たけしさん、さんまさんのビッグ3がいて、とんねるずさん、ウンナンさん、ダウンタウンさんがいて……輝いていたあの頃のテレビに入ったら、今とはまた違う楽しさがあるかもしれないなという気持ちはあります。
父から、ツッコミの英才教育を受けていた
──橋本さんって、呼吸するようにツッコミされている印象ですが、無口だったころはどうされていたのでしょうか? 橋本:脳内でしゃべってました。無口かおしゃべりかは、発しているか発していないかの違いだけだと思います。脳内でしゃべってる人は、呼び水さえあれば、一気にしゃべるようになるんです。僕の場合は芸人になったことで、脳内にわきあがるおしゃべりを、外に発していいんだと気づいたんです。今も、脳内でもしゃべってますね。 ──脳内ツッコミが続くと疲れませんか……? 橋本:いやむしろ、ツッコミで、日々のモヤモヤを消化してる感じです。毎日、100%楽しいってないじゃないですか。今日も、ここに来るとき、タクシーに道を間違えられたんです。そういう対人関係によって起きることだけでなく、銀行に行くのがめんどうやなあとか、忘れ物してもうたとか、仕事でいやなことがあったとか……生活してるといろいろあると思うんですけど、ツッコミを入れると、全部が「ボケ」に見えてくるんですよ。だから、ツッコミで、日常のあれこれに、お焼香あげてる感じです。僕にとってツッコミって、怒りを鎮めるレクイエムです。 ──ツッコミを入れることで、目の前の出来事に距離ができたり、心に余裕が生まれるのはわかる気がします。とくに「細かいことが気になる」橋本さんゆえに怒りやモヤモヤが大きく、それが笑いを生み出している……という(好)循環がこの本でよくわかりました。46歳で亡くなったお父さんも厳しく、怒りっぽかったと書かれていますね。 橋本:親父は大の本好きで、正月には黒紋付に袴をはき、誰かとぶつかると「失敬」と言うような、キャラが濃い人間でした。面白い人間やったと大人になった今は思うんですが、瞬間湯沸かし器みたいなところがあって、子供の頃はめっちゃ怖かったんです。僕もそのDANを受け継いでいると思うからこそ、親父を反面教師にして、すぐ怒る人にはならないでおこうと決めました。だからストレスがたまるんです(笑)。 でも考えたら、僕のツッコミの原点って、親父です。親父は喫茶店で、コーヒーが出てくるのがちょっと遅いだけで、よくキレてました。そんな親父を見て僕は、「キレるの早いわ!」とか「怒ってもしょうがないやろ!」とか、ツッコミまくってた。もちろん怖いので口には出さず、脳内で。だから、ツッコミの英才教育を知らぬ間に受けていた感じですね。
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