DXの成果が「期待通り」の企業は全体で41%、先進企業では96%――その差をPwCが分析
PwCコンサルティング合同会社は11日、同社が実施した「2024年DX意識調査-ITモダナイゼーション編-」について説明会を開催した。同調査は2021年から実施しており、今回が4回目。今回は2024年9月に、売上500億円以上のITモダナイゼーションに関与している企業や組織の課長レベル以上500人を対象に調査した。 【画像】先進企業の96%がDXの成果を「期待通りもしくは期待以上」と回答 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー インダストリーソリューション担当の中山裕之氏は、今回の調査で明らかになったこととして、「DXの成果が期待通り出ているとした企業は全体の41%だったが、ITモダナイゼーション成熟度で『先進』と位置づけられた企業では、その割合が96%に達した」と述べた。 ITモダナイゼーション成熟度は、ITの俊敏性と弾力性を重要ととらえ、「アジャイル開発手法の活用状況」「パブリッククラウドの活用状況」「クラウドネイティブ技術の活用状況」の3点に関する質問に着目。3つすべてにおいて全社的に活用中の企業を「先進」、3つすべてにおいて一部を本番で活用中の企業を「準先進」、それ以外の企業を「その他」と分類した。 その結果、ITモダナイゼーションの成熟度については、先進が9%、準先進が48%、その他が43%だった。2023年と比較すると、先進は微増、準先進は微減で「成熟度に関しては進展が見られなかった」と中山氏。ただし、それぞれの活用状況は、アジャイル開発が72%、パブリッククラウドが78%、クラウドネイティブ技術が78%と、すべて高水準を維持しており、「活用が定着しつつある」(中山氏)としている。 今回は生成AIの活用についても調査したところ、システム企画、開発、運用において幅広く生成AIが活用されていることがわかった。特に、議事録作成や、設計書などのドキュメント作成支援、技術やツールに関する調査と質疑などでの活用が目立っているほか、まだ割合は少ないものの既存システムの仕様解析やコード生成、コードレビューなど、システム開発のコアな部分でもAIの活用が広がっており、「各種ベンダーがこの領域に新しい製品を投入しており、1年後には活用が大幅に増加すると予想される。従来のシステム開発に大きなパラダイムシフトが起きるだろう」と中山氏は述べている。 ■ 先進企業とその他の企業の違いとは では、DXの成果を「期待通り」とする先進企業は、ほかの企業と何が違うのだろうか。中山氏は、人材、プロセス、組織、テクノロジーの観点から分析した。 まず人材面において、デジタル人材の育成が「期待通り、もしくは期待以上の成果が出ている」と回答した割合に着目。全体では13%だったが、先進企業では80%に達していた。 その背景について中山氏は、「先進企業の91%は、システム開発を内製化している。また、アジャイル開発においても、先進企業の85%は内製化を実現している」と話す。システム開発を内製化している準先進企業は29%、その他の企業は16%で、アジャイル開発を内製化している準先進企業は20%、その他の企業は10%にとどまっていることを考えると、先進企業の内製化率が際立って高いことがわかる。 「デジタル人材の育成における社内の障壁に関しては、実践の場が少ないことが2番目に挙げられている。先進企業では、システム開発や運用、アジャイル開発を内製化することで実践の機会が増え、結果としてデジタル人材の育成につながっていると考えられる」と中山氏は推察する。 ただし、システム開発や運用を内製化していると回答した企業のうち、「デジタル人材育成が期待以上もしくは期待通り」と回答した割合は36%にとどまっていることも中山氏は指摘。「単に内製化するだけなく、先進企業のようにアジャイル開発やクラウドネイティブ技術を全面的に活用することが重要だ」とした。 次に中山氏は、プロセス面からDXの成果を分析し、「先進企業はアジャイル用の社内プロセスを整備し、既に運用している」と語る。アジャイル開発を推進するには、従来のウォーターフォール型を前提とした社内プロセスが合わないケースが多く、特に品質管理や予算管理などでこれまでとは異なる社内プロセスや規程が必要となるが、「先進企業は98%がアジャイル開発に適した規程やルールを運用中で、アジャイル開発を進める準備ができていることが見て取れる」と中山氏は解説する。 組織面においては、「先進企業は、DX推進部門と業務部門、そしてIT部門の3つの部門が連携してDXに取り組んでいる」(中山氏)という。連携が取れている割合は、全体では40%だが、先進企業は89%にのぼる。DXを推進するには、日常業務から切り離された専任のチームを置くことが効果的であることに加え、「先進企業は積極的に部門を超えた取り組みを進めている」という。 テクノロジー面については、「先進企業は自動化を積極的に推進し、作業の効率化を徹底している」と中山氏。特に先進企業では、バックアップやパッチ適用などの定期的なシステム運用作業の自動化率が93%にのぼり、「自動化を推進することで作業を効率化し、人材育成の時間を工面したり、より高付加価値な業務に社員をシフトさせたりと、人材の有効活用に生かしていることが見て取れる」とした。 ■ DX成功に向けたPwCの提言 こうした調査結果から、PwCコンサルティング ディレクター Agile & Cloud Transformation CoEリーダーの鈴木直氏は、DX成功に向けた提言を語った。 まず1点目は、組織面における提言で、「組織の役割を再定義し、利用者起点でサービス志向型組織に移行せよ」と鈴木氏。「従来の機能別組織は、リソースの効率的な配置には効果的だったが、部門間のコミュニケーションコストが高く、市場変化や意思決定のスピードが遅くなるという課題があった。現代の多様化する利用者の期待に応えるには、市場変化への迅速かつ柔軟な対応が重要だ。そのため、利用者を基点としたサービス志向型の組織に移行することで、コミュニケーションコストを削減し、迅速な対応ができるようにしてもらいたい」と鈴木氏は説明する。 2点目は、テクノロジーの観点から、「デジタルプラットフォームを構築し、デジタルの前線化をサポートせよ」と提言する。デジタル技術とデジタル人材が前線化する中、セキュリティ、品質、コストなどのリスク低減を図るデジタルプラットフォームが必要だと鈴木氏は述べ、そのプラットフォームを整備する際に重要なこととして、「社内規定のセキュリティポリシーが設定されたテンプレートを提供していること。セルフサービス型の開発者ポータルを通じて開発者が簡単に環境やツールを利用できること。開発者体験を継続的に改善し、プラットフォームの運用を高度化すること。プラットフォームのプロダクトオーナーをIT部門とし、デジタル時代の新しい役割を担うこと」を挙げた。 3点目は、プロセス面における提言として、「アジャイル開発の適用を拡大し、組織運営にもアジャイルの考え方を適用せよ」と鈴木氏。アジャイル開発は、利用者価値を基に優先順位付けされたタスクや課題をチーム全体でリアルタイムに把握し、短期サイクルでレビューした上で継続的な改善を図ることが特徴だ。鈴木氏は、「初期段階で明確なゴールを定義することが難しいDXの推進において、アジャイル開発は有効な手段だ」と話す。 そのアジャイル開発は、「ソフトウェア開発に限らず、企業内のあらゆる業務や組織運営にも適用可能だ」と鈴木氏。アジャイルアプローチをあらゆる業務と組織運営にも適用することで、「企業全体として市場変化に柔軟かつ迅速に対応できるようになる」とした。 4点目は人材面における提言で、「内製化を推進し、DXけん引人材を育成するとともに、企業全体のデジタルリテラシーを向上せよ」と鈴木氏は言う。デジタル人材の育成において、期待通りの効果が出ている割合はいまだ全体で13%と低いことから、鈴木氏は「企業のデジタル戦略に基づいた育成計画が必要だ」と語る。 具体的には、「デジタル戦略に沿った人材の要件を明確にし、スクラムマスターやプロダクトオーナー、アーキテクト、AI開発者などの役割ごとに育成計画と採用計画を立てることが求められる」と鈴木氏。また、育成した人材が退職しないよう、「企業内でのキャリアパスやキャリアアップの機会を提供し、長期的な成長を支援する環境を整えることも重要だ」とした。また、デジタルリテラシー全体の向上も不可欠なことから、「人事部門や社員教育担当部門が指導して整備し、オンラインサービスなどを活用して効率的に教育を提供してもらいたい」と鈴木氏は述べた。
クラウド Watch,藤本 京子