全てが桁違いのヘビー級統一戦~オイルマネーとスポーツの行方~
階級制のボクシングで、最も重いヘビー級は迫力満点で観客を熱狂させる。その世界主要4団体統一戦として大きな注目を集めるのが、オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)―タイソン・フューリー(英国)のカード。2月17日にサウジアラビアの首都リヤドで予定されていた試合は、練習中のフューリーの負傷により5月18日に延期となった。楽しみが引き延ばされたことで余計に、サウジが絡むスポーツイベントのスケールの大きさを感じさせる出来事も発生。潤沢なオイルマネーを駆使する中東の国はボクシング以外でも、スポーツの将来に小さくない影響を及ぼしつつある。
メガファイトの罰金は15億円
ムハマド・アリ、マイク・タイソン(ともに米国)といった歴代チャンピオンの系譜。愛好者の枠を超越した社会的知名度を持つように、ヘビー級はボクシングの象徴といえる。今回は、無敗の両者によるファン垂涎のメガファイトだ。世界ボクシング協会(WBA)世界ボクシング機構(WBO)国際ボクシング連盟(IBF)王者のウシクは21戦21勝(14KO)、世界ボクシング評議会(WBC)チャンピオンのフューリーは35戦34勝(24KO)1分け。スピードと技術に優れるウシクに対し、身長206㌢と体格で上回るフューリーはパワフルなパンチを身上としている。 直近のヘビー級では、1999年にレノックス・ルイス(英国)が統一王座に就いた例はあるが、現行の主要4団体時代となってからは初めてとなる。ともに前の試合は万全とはいかなかっただけに、名誉挽回を懸けた意地のぶつかり合いが期待される。事実、昨年開かれた記者会見のフェースオフでは、お互いに額と額をこすりつけて一歩も引かず、にらみ合いを展開した。フューリーが「結果は分かっている。おまえは殴られて粉々になるだけだ」と挑発。ウシクはロシアの侵攻を受ける祖国を念頭に「自分の家族、母国の人々、そして母国を守ってくれている人たちに恩返しする絶好の機会だ」と必勝を誓った。 延期になったのは、フューリーがスパーリング中に右目付近を11針縫うけがをしたのが理由。その後の成り行きが、サウジアラビアでの興行の破格さを如実に物語っている。同国のプロモーターが、もし5月18日に試合ができなくなった場合、当該選手に1000万㌦(約15億円)の罰金を科すと発表したのだ。フューリーをプロモートするボブ・アラム氏は、「彼はウシク戦で1億ポンド(約189億円)を稼ぐよ」と明かしていた。ファイトマネーも天文学的なら罰金も超高額。通常の世界戦とは桁違いの規模だ。