全てが桁違いのヘビー級統一戦~オイルマネーとスポーツの行方~
批判浴びても勢力拡大
サウジアラビアは近年、豊富なオイルマネーを後ろ盾にして、世界のスポーツシーンで存在感を急激に高めている。2021年に自動車のF1シリーズを初開催し、サッカーではクリスティアノ・ロナルド(ポルトガル)やネイマール(ブラジル)らスターが続々と同国内のプロリーグに加入。ボクシングではウシク、フューリーともに過去にサウジでの試合経験があり、日本が誇るスーパーバンタム級の世界4団体統一王者、井上尚弥(大橋)の将来の試合候補地として名前が挙がったほどだ。 ビッグイベントに関わり豪華選手を招へいすることは、批判を浴びる側面がある。反政府記者の殺害事件や死刑執行の多さなどから人権軽視との指摘を受けるサウジ。この点に絡み、スポーツに巨額をつぎ込んで多大な興味を引きつけることにより、権利の侵害から注意をそらすという「スポーツウオッシング」ではないかとの意見が根強く存在する。 特に物議を醸してきたのが男子ゴルフ。サウジ政府系ファンドが支援する超高額賞金ツアー「LIVゴルフ」が2022年にスタートし、世界最高峰といわれる米男子のPGAツアーからダスティン・ジョンソン(米国)ら強豪が次々に引き抜かれ、深刻な敵対関係に陥った。しかし昨年6月、事業統合の合意が発表された。今年からメジャー覇者のジョン・ラーム(スペイン)がLIVに移籍。LIV批判の急先鋒だったロリー・マキロイ(英国)も「ゴルフ界のためには、一緒になって前進していくのがいい」と態度を軟化させた。大局的に見ればPGAがLIVの勢いにのみ込まれ、路線変更を余儀なくされたと捉えられる。 この他でも、サッカーの2034年ワールドカップ(W杯)開催地選定に関し、他に立候補がなかったため、サウジで初実施されることになった。ついに、五輪、ラグビーW杯と並ぶ世界三大スポーツイベントの一つを誘致。サウジの勢力は拡大の一途をたどっている。
スポーツのメッカ?
これまではプロスポーツとの関わりが目立っていたが、最近に来て大きな動きがあった。国際オリンピック委員会(IOC)との関係強化だ。IOCのトーマス・バッハ会長が昨年10月に特別ゲストとしてサウジアラビアに招かれ、要人たちと会談。一緒に国内スポーツイベントを視察して回り、交流を深めた。バッハ会長は「サウジアラビアにおけるスポーツの発展は大変目覚ましいものがあり、これほどの短期間で変容を遂げた国はないと思う」と絶賛した。加えて、サウジのスポーツ界で女性の進出も加速しているとし「われわれも同じ志向で、とても親しみを感じている」と手放しの褒めようだった。 IOCは、五輪を「平和の祭典」としてもアピールしている。今夏のパリ五輪ではウクライナ侵攻を理由にロシアと同盟国ベラルーシの選手の参加について、個人資格での中立選手に限定した。それでも、人権軽視と批判されるサウジに秋波を送り始めた現状は、建前を上回る〝実〟を期待してのことか。そういえば、IOCはコンピューターゲームなどの腕を競うeスポーツの五輪採用を見据えているが、サウジは今年、史上最高額の賞金を提供するeスポーツのW杯を開催する予定でもある。東京五輪の汚職・談合事件などの影響で札幌冬季五輪の招致活動を停止し、IOCと距離ができたとされる日本とは対照的な様相だ。 最近はアリ、タイソンといった突出した存在がいなかったボクシングのヘビー級。ウシク、フューリーのどちらかに初黒星がつく可能性が高い5月の対決は、同級初の4団体統一王者の誕生を意味する。全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド」を左右することが想定され、ボクシング界全体にとってもまさに大一番になる。同時に興行が成功裏に終われば、仮に将来的にサウジが世界的な〝スポーツのメッカ〟と呼ばれるようになった際、節目のイベントの一つとして歴史的に語り継がれることになるかもしれない。