1982年に旭通信社への入社をきっかけに広告業界へ[第1部 ‐ 第1話]
糸井重里の登場に刺激を受けて広告業界に興味が向かう
佐藤:ちょうどその頃、個人的にテレビCMがすごくおもしろくなってきていました。コピーライターの糸井重里が出てきたからなんですが、西武百貨店の「おいしい生活」などの名キャッチコピーが生まれた頃で、『宣伝会議』などを読んだりしているうちになんとなく広告業界が良いなあと思うようになりました。 杓谷:西武百貨店の「おいしい生活」は、1982年にコピーライターの糸井重里が考案したキャッチコピーですね。映画監督のウディ・アレンが起用されたことでも知られ、「おいしい生活」の「おいしい」という言葉は、たいして汗をかかずに利益が得られるというような意味を指していて、今で言う「コスパ」の意味に近いかもしれません。オシャレで洗練された生活が手軽に手に入る西武百貨店にぜひお越しください、ということですよね。1990年代では、テレビで芸人が体を張った芸でいじられると「(何もしなくてもウケるなんて)おいしいなぁ~」なんて言葉がよく聞かれましたが、そういえば最近は聞かないですね。
糸井重里は、西武百貨店の他にスタジオジブリ作品のコピーなども手掛けていることで有名ですね。ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』や、ゲーム『MOTHER』シリーズの制作など、その活動はコピーライターの枠に収まらず多岐に渡りますが、元々はコピーライターとしての活動が出発点でした。『宣伝会議別冊「コピー・パワー」』など、1980年前後の広告業界の雑誌を見ると、いかに彼が注目されていたかがわかりますね。
佐藤:広告業界の中でいくつか企業を探してみると、旭通信社という会社を発見しました。『ドラえもん』『巨人の星』『エイトマン』など、子供の頃から熱心に見ていた有名なアニメ番組をたくさん制作していて、大手ほどの規模ではないけど、おもしろそうな会社があるなと思ったわけです。それでちょっと心が動いてしまって、説明会に参加してみると、同じように受けに来た人たちが「あの広告おもしろいよね!」と盛り上がっていて、活気があって楽しそうだなと感じました。 一方で、他の業界の会社に行くと、そこまで業界について熱心に話している人はいませんでした。そうした経験から、次第に広告業界に興味が向いていきました。「これが自分に合っているのかもしれない」と感じ、広告業界に飛び込むことを決意しました。 杓谷:つまり、慣習的になんとなく大手企業に行くのではなく、自分で探し当てて旭通信社を発見し、これからテレビの全盛期を迎えようとしている時代の広告業界に飛び込んだわけですね。