分析結果は「日本必敗」、それでも開戦に突き進んだ日本軍…ドイツ頼みの希望的観測が要因か
牧野教授は、ドイツが短期間でソ連を破れば、イギリスには勝てるかもしれないと解釈できたことが、開戦の意思決定に影響を与えた可能性も指摘する。「その間に日本が東南アジアの資源を獲得できれば、戦争準備が間に合わない米国は交戦意欲を失い、交渉に応じるかもしれない」。そんな希望的観測が、指導層を開戦に向かわせた。(文化部 前田啓介)
現代でも生き続ける前例踏襲の国民性
敗戦で日本軍は解体されたが、その組織的特性は戦後の日本社会に生き続けた。
日本軍が敗北した原因を分析した「失敗の本質」の著者の一人で、東京国際大の村井友秀・特命教授によると、日本軍は明治期に英仏独などの外国に学び、組織を拡充。日露戦争では戦艦による艦隊決戦などで勝利を収めた。
太平洋戦争でも「過去はこうして勝ったから」という根拠のない楽観主義に支配され、過去と同じ戦い方を繰り返した。真珠湾攻撃など例外はあったものの、硬直した戦術に終始し、米軍の機械力と物量に敗れた。
村井氏は日本軍の特性として、▽規律を順守する均質性▽過去の経験から規則性を見つけて行動に移そうとする思考▽組織調和の重視――などを挙げる。そのうえで、日本軍が失敗した本質は、前例にとらわれて自己革新ができず、新たな戦略環境に適応できなかったことだと指摘する。「軍はその国の性格を最もよく示す組織だ。日本軍を形づくった国民性は、戦後の企業や社会にも表れている」と語る。
ただし、こうした特性は、ある条件下では有効に機能する。例えば均質の製品を大量に生産することが求められた高度経済成長にうまく適応し、日本の復興を支えた。しかし多くのスタートアップ(新興企業)がもみ合うように革新的な技術を生み出している現在の環境に対応できているとはいえない。
村井氏は「戦後の日本は、戦争は悪だという反省はしたが、日本軍のどこに欠陥があり、なぜ国民はそうした組織を作ってしまったか十分に省みられなかった」と強調する。「組織は過去の自分たちの姿ではなく、現在の周囲の環境を鏡として柔軟につくる必要がある。日本軍の失敗は、今もそのことを私たちに突きつけている」と話す。(社会部 波多江一郎)