平塚市における認知症初期集中支援の実践と課題―内門大丈先生インタビュー【前編】
◇大切なのは「地域の対応力」を上げること
平塚市の認知症初期集中支援チーム対象者(選定数)は、コロナ禍前は年間30~50人ほどでしたが、2022年度の実績は10人でした。コロナ禍が明けて対象者数は徐々に戻りつつありますが、人数のみを取り組みの指標にしてよいかは考えなくてはなりません。たとえ支援する人が10人から40人に増やせたとしても、認知症患者さんがごまんといる中、氷山の一角であることに変わりありません。単に人数で取り組みを評価するのではなく、「地域の対応力」を上げていくことこそが大事だと考えています。 認知症初期集中支援チームは看護師、精神保健福祉士、認知症を専門とする医師など、多職種で構成されています。また地域包括支援センターにいるスタッフの職種もさまざまです。地域でよりよい支援を行っていくためには、それぞれが認知症に関するリテラシーを高める努力が必要です。互いにスキルアップすることはもちろん、普段から密にコミュニケーションを取ることも大切だと思います。その点、当院のスタッフは普段から共に働いているため、常に顔が見える連携ができていることは強みでしょう。
◇ネットワークシステムを活用し連携を強化
平塚市独自の取り組みとして「medical B.I.G.net(メディカルビッグネット)」というネットワークシステムの活用があります。メディカルビッグネットは医療・介護関係者専用のシステムで、湘南西部二次医療圏およびその周辺地域の地域包括ケアシステム構築を目指して2020年にスタートしました。現在、参加施設は神奈川県西・県央、湘南東部医療圏にまで拡大しつつあります。急性期病院から療養型病院への速やかな移行・退院の促進が目的ですが、認知症初期集中支援事業においても2023年末より活用を始めました。具体的には、13の地域包括支援センターと認知症初期集中支援チームのクローズドなやり取りをオンライン上で行っています。このシステムでは、たとえば在宅療養支援診療所を探したい場合などにオンライン上で患者さんの情報を共有して医療機関に挙手してもらうことができますが、正直なところ、直接電話をして受け入れ可否を確認したほうが早かったりします。しかし先ほどお話ししたとおり、私たちが行っている認知症初期集中支援事業は、出口のない人たちをサポートするものです。緊急性は高くないものの、うまく医療や介護につながることができていない人たちについて、課題の情報共有と、解決のためのやり取りを蓄積することは有効だと考えます。医師である私と地域包括支援センターによるさまざまなケースについてのやり取りは、オンライン上でほかのセンターのスタッフも見ることができ、月1回の選定会議以外にも情報共有の機会を増やすことができています。また、認知症に関する勉強会などの情報もネットワーク上に掲載することで、多職種のスタッフたちのスキルアップの機会にもつながっています。