国内唯一の「塩田熟成カキ」で世界に勝負…瀬戸内海の離島で起きている「オイスター革命」の中身
養殖業と聞くとどんな働き方をイメージするだろうか。瀬戸内海の離島のスタートアップ企業「ファームスズキ」は、塩田跡地を活用した日本唯一の製法でカキを養殖している。一般的なカキ養殖は収穫までに1~2年かかるが、徹底的な機械化により年2~3回の収穫が可能だという。その独自製法をジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(中編/全3回) 【写真】ファームスズキ創業者の鈴木社長。本社オフィスを前に ■カキ養殖とは「サイエンス」? (前編からつづく) 「柑橘の島」として知られる大崎上島でファームスズキが養殖しているのは「クレールオイスター(塩田熟成カキ)」。海で育ったカキに比べて小粒で、甘くて濃厚だ。加熱して食べることが多い日本では肉厚で大粒なカキが主流だが、つるりと喉越しが良い生ガキが海外では好まれる。 社長の鈴木隆(48)は養殖場所として、島を取り囲む海ではなく陸上の塩田跡を選んだ。その広さは東京ドーム2個分。 漁師にとっては経験値が重要だ。では養殖業者にとっては何が重要なのか? 鈴木は「経験以上に理論が大事」と強調する。 「カキ養殖というのはサイエンスの仕事。理論をきちんと勉強していかなければ発展性は望めない」 ■「肉体労働に頼っていては世界で勝てない」 大崎上島にある同社本社を訪ねると、さまざまな機械が目に飛び込んでくる。それぞれが理論に基づいて造られた特別仕様だ。 その中の一つは完全自家製の塩製造機。「塩田跡が養殖池のみに使われているのではもったいない」との発想から生まれたサイドビジネス用であり、「クレールソルト」と呼ばれる独自ブランドの製造に使われている。 設計図を描いたのは、鈴木にとって大学時代の恩師であり、理論を熟知している水産学者の横田源弘だ。「地下海水製塩法」というタイトルの設計図には、図面と共に複雑な数式もびっしり書き込まれている。 言うまでもなく機械を使いこなすのは人間だ。そのために鈴木は社員に対して「養殖=サイエンス」という思考を持つよう促している。 「どんなに汗水流したところで、肉体労働に頼っている限りは世界で勝てない。社員一人一人が数字を理解して機械を動かし、付加価値を生み出す必要があります」