「海の力で発電」は実現困難 電気は安く大量に発電し、送電しなければならない
もはや日本には適地がない水力発電
火力発電設備は燃料調達という大きな課題を持ち、CO2も排出するという欠点もある。海洋での発電のように、水力、地熱などの他の発電方式にも課題がある。 発電事業の初期から建設された水力発電は水の位置エネルギーを利用し水車と発電機を回すが、水がなければ発電できない。川の途中に設置される流れ込み式では、川の水量が少ない時期には発電量も影響を受ける。ダム式では、乾期に貯水量が減少した時に発電量も影響を受ける。 ダム式の水力発電では、電力の需要がない時には貯水に努め発電を行わず、需要がある時に備えることも可能だ。水力発電の大きなメリットは、CO2を排出しないことだが、日本では水力発電の適地はほぼ開発が行われており、これから大型の設備を建設可能な適地はなくなっている。
揚水発電所は建設に時間がかかる
水力発電では揚水式と呼ばれる大きな蓄電池と言える方式も利用されている。太陽光発電設備などからの発電量が需要量を上回る際に、余った電気でモータを回し下池の水を高い位置にある上池に揚げておき、電力需要が多い時に上池の水を落としモータを発電機として利用し発電を行う方式だ。再エネの電気を有効活用できる設備だが、設置する費用は大きく、発電コストも高くなる。 日本では揚水発電所の適地も少なくなっているが、北米、豪州では多くの適地がある。再エネ設備導入により大きな蓄電池である揚水発電への需要は高まっているが、適地がある北米、豪州でも建設が簡単に進まない事情がある。北米水力発電協会の担当者は次の問題を指摘している。 「建設に時間がかかることが大きな課題。大規模土木工事になり、建設期間は最低でも3、4年はかかる。その間に、蓄電池の性能は改善するはずであり、蓄電能力が向上し、価格が下がる可能性がある。完成時点では、大型蓄電池に競争力があり揚水発電設備の利用者が少ないかもしれない。将来の収益性が不透明なため建設は進まない」。
バイオマスの可能性は?
火山の近くには高温の蒸気の溜まりがある。この蒸気を取り出し直接タービンを回すのが地熱発電だ。CO2を排出せず、安定的に発電ができる上、火山が多い日本には地熱の適地が多くあるが、適地の8割は開発が困難な国立公園内とされている。調査と設備への投資額が大きく、運転中に蒸気の噴出が止まる可能性、また近隣の温泉に影響するリスクもあり、すぐに多くの地熱設備が建設される状況ではない。 バイオマスは一般的にあまりなじみのない言葉かもしれないが、生物資源を指す。よく使われるのが、木質バイオマスと呼ばれる木片、ペレット(おがくずなどを固めたもの)を燃料とする発電だ。植物は成長の過程でCO2を吸収し炭素を体内に残し、酸素を排出する。木を燃やしても大気中から吸収したものを戻すだけなので、大気中のCO2は増えない。 生ごみ、動物の糞尿から天然ガスの主成分であるメタンガスを発生させ、ガスエンジンなどを利用し発電する方法もある。欧州では日本と異なり生ごみを焼却せず埋め立て処分することが多く、発生するメタンガスを利用し発電する。オーストリア、ドイツなどの欧州諸国では、地域の熱供給あるいは発電でバイオマスも広く利用されている。 日本では欧州よりも山地が急傾斜であることが多く、植林の際に間引きされる間伐材などを需要地に運ぶコストが高くなる問題がある。廃棄された建材を利用する際には建材に付着した塗料などが燃焼時にトラブルを引き起こす。欧州では鶏糞を木質バイオマスと混ぜ燃料とし発電しているが、バイオマスの利用では安定的に競争力のある燃料を調達することが課題だ。
山本隆三