「海の力で発電」は実現困難 電気は安く大量に発電し、送電しなければならない
2024年の夏は10年に1度の酷暑と言われており、エアコンの使用などによる電気代の上昇が懸念されていたため、政府は8月から電気代・ガス代の補助金を一時的に再開する予定だが、場当たり的な政策に国民からの批判の声も聞かれる。日本が本当に国際的な競争力をもった電気料金を実現するためには、電力政策の早急な見直しが必要となる。本記事では、知っておくべき電気にまつわる知識を、さまざまな角度から解説する。 *本記事は『間違いだらけの電力問題』(山本隆三、ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
海洋での発電はそもそも実用化が困難
市民の方を対象に講演させていただく際に、会場に来られている方から海洋での発電に関する質問を受けることがある。日本は海洋に囲まれた国なので、海の力で発電すれば良いのではとの質問だ。テレビのニュースなどで海水温度差の利用、波の力、潮の満ち引きによる発電などが取り上げられることがあるので、番組を見られた方は海洋の力で発電できると思うのだろう。 海洋に加え、ニュース番組では人の踏む力での発電も取り上げられることがある。たとえば、鉄道の改札の前に発電装置を置き、人が通ると発電する様子が放映された。アルミの廃棄物から水素を取り出し発電する様子が取り上げられたこともある。海洋を利用するのと同じく、CO2を出さない温暖化問題の解決に寄与する方法だ。発電することは可能だが、大きな問題がある。一つは、発電量だ。もう一つは発電のコストだ。報道で取り上げられる発電方式の実用化を阻む大きな壁だ。 発電量を表す時に、何世帯分の使用量に相当すると聞けば、大きな量のように思う。たとえば、1万世帯分の電力消費分を発電すると聞くと、大規模な発電を行っているように思える。1万世帯が1年間に消費する電力は3000万kWhなので、大変な電力量には違いないが、日本の発電量は年間に約1兆kWhあるので、0.003%に過ぎない。平均的な原子力発電所1基が年間に発電する量は70億kWhなので、230万世帯が消費する電力量に相当する。電力を多く使用しているのは、家庭よりも製造業、あるいは業務部門と呼ばれるオフィスビル、病院、学校、ショッピングモール、デパートなのだ。 海洋の力、あるいは人の踏む力などの発電量は、非常に小さいものだ。せいぜい浮き灯台や、電灯をつけることはできても、それ以上の発電量を得て実用化することは現在の技術では簡単ではない。 加えて、発電コストの問題がある。エジソンの時代から火力発電が150年間主役を担っているのは、電気を安く大量に作ることができるからだ。電気を作る方法はさまざまだが、安く、大量に発電することが求められている。海洋での発電が主力になるには大きな技術革新が必要になる。