トランプ返り咲きに影落とす“危険思想”政策レポート「Project 2025」、その内容とは
米共和党超保守派で知られるシンクタンクの過激政策提言が、大統領選でハリス陣営にとっての格好の攻撃材料となっている。トランプ候補自身が間を置かず「知らぬ存ぜぬ」を決め込むなど、火消しに躍起となっている。
民主党全国大会で繰り返し取り上げ
「皆さん、トランプ候補はわが国の民主主義を根本から否定するこんな危険な政策を推進しようとしています」――。 カマラ・ハリス、ティム・ウォルズ正副大統領候補が指名受諾演説を行った先の民主党全国大会(8月19~23日)では、有力民主党議員の何人かが会場を埋め尽くした5万人近くの党員を前に、この日のために特別に拡大コピーしたズシリと重い表題『Project 2025』の報告書を抱えて次々に登壇。繰り返しトランプ糾弾の演説を行い、話題をさらった。 全文920ページからなる問題の報告書は、トランプ氏と近い関係にあるシンクタンク「ヘリテージ財団」(本部ワシントン)が「次期共和党政権の青写真」と銘打ち、昨年4月に刊行し、「トランプ次期政権」を担う側近、関係者を中心にコピーが回覧されてきた。 しかし、今年7月2日、同プロジェクトの総指揮を執るケビン・ロバーツ財団理事長が報告書に言及する中で、「我々はいま、第二次米国革命(the Second American Revolution) に着手しようとしている。革命は左翼がそれを容認する限りにおいて無血で成し遂げられるだろう」とあたかも武力革命を示唆するかのような発言をしたことをきっかけとして、全米マスコミの間でハチの巣をつついたような騒ぎとなった。 この事態にあわてたトランプ候補は、今後の選挙戦への影響を警戒し、直後の5日には、自ら設営するSNS「True Social」を通じ、「自分は何のかかわりもない」「報告書の中身の多くは自分の考えと相いれない」などとコメント。プロジェクトとの関係打ち消しに翻弄されてきた。
「Project 2025」の中身
その「Project 2025」とは実際、どのようなものなのか。 報告書は内政、外交、安全保障政策など全般に及んでいるが、もっぱらハリス陣営が攻撃材料にしているのが、大統領権限の大幅拡大、民主党系上級官僚、職員の政府からの一掃、環境保護政策軽視など、内政に関するものだ。 そこには具体的に、以下のような政策目標が掲げられている: 〈大統領権限および人事政策〉 「すべての行政機関は『単一政府論』に基づき、ホワイトハウスの統括下に置くものとする。この結果、司法省、連邦捜査局(FBI)、連邦通信委員会(FCC)、連邦貿易委員会(FTC)その他の機関の独立機能を撤廃する。 とくに強大な捜査権を持つ司法省は、根拠不十分なままトランプ前大統領を摘発するなど、リベラル思想の巣窟と化しているため、今後は活動を厳格化し、重大犯罪、国家安全保障上の脅威に関わる事案捜査に重点を移すとともに、大統領の直接管轄下に置く。FBI捜査も同様とする。 新政権が発足する2025年1月20日までに指導的立場にある国務省の上級官吏(500人余)全員を解任するとともに、保守主義を唱導する新大統領と思想を共有する官僚たちを登用する。彼らは(従来の慣行と異なり)上院での承認を必要としない。 連邦政府各省庁で働く何万人もの職員についても、抜本的に洗い直し、大統領に忠実な人材を選別・採用する。全省庁の4000人近くの政治任用ポストについても思想統一を徹底させる」 〈健康保険および公衆衛生政策〉 「バイデン政権は米国の核家族の伝統を侵害し、国民の税金を無駄使いしてきた。我々は、家庭の自立構造を促進させるために連邦保健・人的サービス省(DHHS)を抜本的に改編する。 オバマケアで認められてきた避妊薬の保険適用を撤廃するほか、一般患者治療に関しても政府依存ではなく個人保険に重点を置いたメディケア・プログラムを推進する。低所得者、高齢慢性疾病者を対象としたメディケイドについても、連邦支出を削減するほか、州レベルでの適用を厳格化させる。 国立衛生研究所(NIH)は腐敗と政治的偏向が目立つため、劇的改革を必要としており、研究スタッフ採用時の男女平等政策、ES細胞研究などのプログラム助成を打ち切る。疫病対策予防センター(CDC)についても、公衆衛生指針の発令を停止させる」 〈経済・財政政策〉 「完全雇用の実現を是とする連邦準備制度理事会(FRB)の制度を廃止し、インフレ抑制に重点を置く機構に改める。金本位主義に重点を置く米ドル体制を確立する。 税制については究極的に所得税中心から連邦売上税への移行をめざす。個人所得税については当面、年収16万8600ドルまでの納税者は一律15%、それ以上の所得者は一律30%とする。法人税は現行21%から18%に引き下げる。 連邦経済分析局、国勢調査局、労働統計局を一つの組織に統合し、新政権の保守主義思想を反映させたものとする。独占禁止法の監視組織である連邦取引委員会(FTC)を廃止し、従業員、政府職員の不当労働などの抗議、スト権などを保護する連邦労働関係委員会の役割を縮小する」 〈環境保護政策〉 「次期大統領は、バイデン政権による気候変動関連の行政命令を失効させるとともに、『環境保護』の名のもとに人民の活動を制限しようとするあらゆる政府事業を完全に一掃するべきである。具体的には、温室効果ガス削減戦略を反古にし、そのための公的規制措置を撤廃し、環境保護庁(EPA)を縮小し、気候変動についての最大警鐘機関である「アメリカ海洋大気庁」(NOAA)を廃止する。 州レベルにおいても、カリフォルニア州が実施してきたような車排気ガス規制措置を阻止するだけでなく、石炭燃料産業に対する規制も撤廃させる。連邦政府は、石油、天然ガス、石炭の大規模採掘事業を発展させる義務を負っており、北極海における採掘事業も支援していく。さらに一般国民を対象に、気候変動に関する科学的根拠の脆弱性、研究活動の問題点などについて啓蒙活動を行っていく」