「楽に産んだわね」と言われてモヤモヤ…本当に「陣痛が短い=楽」なのか? 産婦人科医の見解
出産前に起こる「陣痛」。起こるタイミング、痛みの度合い、持続時間の長さには個人差があることが知られており、「陣痛が来てから生まれるまでかなり時間がかかった」人もいれば、「陣痛が始まったと思ったらあっという間に生まれた」という人もいます。しかし中には、「陣痛が短かったから、義母に『楽に産んだわね』と言われてモヤッとした」「義母や友人に、私のときは陣痛が長くて~とマウント取られるのしんどい」といった心ないことを言われた経験がある人もいるようで、「ひどい」「楽なわけないじゃん」「私も言われてつらかった」など、怒りや悲しみの声も聞かれます。 【実際の写真】「すごい…!」 これが体外に出てきた「胎盤」の見た目です(閲覧注意) 実際、陣痛開始から産まれるまでの時間が短かった場合、「楽なお産だった」といえるのでしょうか。神谷町WGレディースクリニック(東京都港区)院長で産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。
命がけで赤ちゃんを産んだことには変わりない
Q.そもそも「陣痛」とは何ですか。 尾西さん「『陣痛』とは、出産が近づいた際、赤ちゃんを押し出すために子宮が収縮する(縮こまる)ときの痛みで、出産の少し前の時期から起こる『前駆陣痛(ぜんくじんつう)』と、赤ちゃんが実際に出てくるまで続く『本陣痛(ほんじんつう)』があります。 前駆陣痛は、臨月(出産予定月)に入る頃に感じ始め、軽く子宮がぎゅっとつかまれる感じがします。持続時間や痛みの間隔には規則性がなく、痛みが弱まったり、強くなったりを繰り返します。 本陣痛は、いわゆる皆さんが想像する陣痛で、日本産科婦人科学会は『規則正しく10分以内または1時間に6回以上の痛みを伴い、分娩に至った子宮の収縮をいい、その開始時期を陣痛発来という』と定義しています。 本陣痛の痛みとしては、立っていてもうずくまるほどの痛みで、私は“骨盤が割れる感じ”がしました。単なる子宮の痛みを通り越して、下半身全部が砕け散るような痛さです。ただ、面白いことに、陣痛と陣痛の間は普通に歩行も会話もできる状態です。 本陣痛の間隔がどんどん短くなっていき、分娩に至ります。陣痛の間隔が2分くらいになると子宮の入り口が全開になり、いよいよ赤ちゃんが出てきます。最後、分娩の近くになると、止めようにも止まらない『いきみ』になっていきます」 Q.個人差はあると思いますが、陣痛の開始から出産まで、おおむねどのくらいの時間がかかるものなのでしょうか。 尾西さん「陣痛の開始から出産までの間には、『分娩第1期』から『分娩第3期』まであります」 【分娩第1期】 陣痛開始から、子宮の入り口が全開していよいよ赤ちゃんが出てくる準備が整うまでを「分娩第1期」といいます。この時期の平均的な所要時間は、初産婦の場合で10~12時間、経産婦の場合で5~6時間です。 【分娩第2期】 子宮の入り口が全開した後、赤ちゃんが出てくるまでを「分娩第2期」といいます。この時期の平均所要時間は、初産婦で1~2時間、経産婦で30分~1時間といわれています。 【分娩第3期】 赤ちゃんが出てから、胎盤が出てくるまでを「分娩第3期」といいます。赤ちゃんが出た後も軽く陣痛が起こり、胎盤が子宮の壁から剥がれ落ちて、体外に出てきます。この時期の所要時間は、初産婦の場合は15分から30分間、経産婦の場合は10分から20分程度となります。 Q.陣痛開始から出産までの時間が短かった女性の中には、「楽に産んだね」「楽なお産だったね」と言われてモヤモヤしたり、悲しい思いをしたりした人もいるようです。実際に「陣痛が短い=楽」といえるものなのでしょうか。 尾西さん「陣痛の感じ方は人それぞれです。また、『短かったから楽』『安産だったから楽』ということはありません。命がけで赤ちゃんを産んだことには変わりないのです。 出産前後のママは精神的にナイーブなので、『頑張ったね』『大変だったね』など、なるべくママをいたわる言葉かけをしましょう」 Q.これから出産を控えている妊婦さんとその周囲の人に向けて、産婦人科医として伝えたいことは。 尾西さん「陣痛は未知なる痛みなので『怖い』と思う人も多いですが、その過程を経て、赤ちゃんは生まれてきます。先輩ママの話を聞いていると『陣痛の痛みは出産すると忘れる』ので、心配をしすぎるより、そのときにどうリラックスするかをイメージし、好きなものや香りなどを探しておきましょう。それでも怖い場合は、無痛分娩という方法もありますよ」
オトナンサー編集部