なぜ東日本新人王決勝で衝撃の10秒TKO劇が生まれたのか…元プロの父がトレーナーを務めるフェザー級の渡邊海がMVP受賞
セコンドには父の利矢さん(54)がついていた。 11勝(7KO)3敗の戦績を残す元A級ボクサー。27年前のフェザー級のA級トーナメントの決勝で今岡武雄(当時斉田ジム)に2ラウンドにKOで倒され、27歳で引退した父は「完璧に仕上げようと準備はしっかりしたが、この勝ち方は予想できなかった」と表情を崩して衝撃のKO劇の裏をこう明かす 「リングに上がる前の集中の仕方が最高だった。そこが成長かな」 渡邊は、控室で「自分は勝つ」「今日は勝つ」「今日は勝つ」と何度も言葉に出して自己暗示をかけていたという。 そして、父が、こう補足する。 「判定でしっかりと勝つ。それがボクシングの魅力であり、そこに意味があるんです。ここまで(5試合中4試合に)ほぼフルマークで勝っている。左と足を重視したボクシングをやって、そこにタイミングが合えば倒す。そこが基本です」 現役時代は、ワンツー、フックをブンブンと振り回していく超好戦的ファイターでKO率は高かったが、最後は、その粗さが裏目に出てカウンターの餌食にあい、キャンバスに這った。上にいくには倒すボクシングの前にまずディフェンスが重要になる。 息子に自らが果たせなかった世界の夢を託す父は、その反省があるからこそ「打たせないボクシング」から教え始めたのである。 渡邊自身も「打たせずに打つのが理想」だという。 小学校1、2年の頃に父にボクシングジムに連れていかれたが、最初は拒絶した。食事をしているときでも、父がじゃれるようにして出すジャブをよけるなど、生活の中にボクシングがあったが、「試合も見ていなかったし、かっこいいとは思わなかった」という。 だが、2011年の大晦日にWBC世界ミニマム級王者時代の井岡一翔がヨードグン・トーチャルンチャイ(タイ)を1ラウンド1分38秒に倒した試合をテレビで見た小3年の“渡邊少年”は心変わりした。 「父ちゃん。ボクシングやりたい」 そのひとことに「強制はできない」とあきらめかけた父は「バラ色の気持ちになった」という。そこから兄も含めて親子三人でライオンズジムに通うボクシング生活が始まる。 名門、駿台学園高に進み、昨年は関東大会を制しインターハイ出場を決めたが、新型コロナ禍のため大会は中止となった。 「悔しかったしアマはもういいな」 日体大への進学が内定しており、父は大学進学を薦めたが、「プロで世界王者になりたい」と、父と同じプロの道へ進むことを選択した。 「アマよりプロの方が注目されて盛り上がりがいい。なんか楽しいっす、試合していても。今日は最高でした」