台湾有事に備える~安全保障と経済の優先順位とは サンデー正論
「台湾有事は日本有事」と言われ始めてしばらくたつ。政府も万が一の事態に備えて体制を整えようと努力しているものの、物事は簡単に進まない。その根本的な理由は、何を守らなければいけないかをめぐる認識の相違がある。その議論の一部を紹介する。 【画像でみる】小宮義則元特許庁長官による「経済安全保障」の定義 日本戦略研究フォーラム(JFSS)が10月24日に開催した定例シンポジウム。JFSSは過去4回、毎年、現役政治家や官僚・自衛隊OBが参加して台湾有事に関するシミュレーションを開催し、その後の定例シンポジウムでシミュレーションの成果報告と参加者による公開討論を行っている。今年は防衛省・自衛隊関係者のほか、経済官庁OBも登壇し、主に台湾有事が起きた際の中国からの邦人退避や、現在の日本企業の中国依存をめぐって議論が交わされた。 ■立場で異なる問題意識 シンポジウムの公開討論で興味深かったのは、小宮義則元特許庁長官の「経済安全保障」の定義だった。 「安全保障」「経済」といってもさまざまな定義がある。「経済安全保障の概念は、経済と安全保障の間に存在するため多様な定義を持つ。さらに、短期、中期、長期によって、そのとらえ方は著しく異なる」と説明する。 これをみると安全保障関係者と経済関係者の問題意識が異なることがわかる。シンポジウム後、小宮氏は筆者に「安全保障関係者は『領土>人命>経済』で、経済関係者は『経済>人命>領土』」とそれぞれの優先順位を表現した。 2020年、日本では中国発の新型コロナウイルスによるサプライチェーン(供給網)の寸断で、マスクなどの調達先を中国に集中させてきた問題が明らかになった。安倍晋三政権は補助金を出して中国から日本への国内回帰や第三国への移転を促したが、「現在でもなお、調達先の特定の国への依存の状況は続いている」(24年版通商白書)。 公開討論で小宮氏は、「日本の産業は中国依存。G7(先進7カ国)の中で最も中国依存度が大きい。現時点で中国市場を無視した瞬間に(日本は)国力を維持できない」と語った。 中国に拠点を置く日本企業は3万1000社。米国やタイ、インド、ベトナムと比較しても突出して多く、コロナ禍前よりも増えた。大企業が中国に進出する際、中小企業も連なって進出することが一因という。また、中国沿岸部には日本企業が多く進出し、日本での最終組み立てに必要なものを中国で加工して日本に戻している。