『陪審員2番』SNS私刑時代にクリント・イーストウッドが正義を問う
「良心」と「倫理」を問う法廷ミステリー
ジョージア州サバンナの記者ジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は、出産を控えた妻と幸せな日々を送る、善良で心優しい男。ある日、ケンプは、とある殺人事件の陪審員に選ばれた。一年前、ケンダル・カーターという若い女性がバーで恋人と口論になったあと、橋の下で遺体となって発見されたのだ。殺人罪で起訴されたのは恋人のジェームズ・サイス。犯罪に関与した過去があり、怒りにまかせて被害者を撲殺したとみられている。 検事のフェイス・キルブルー(トニ・コレット)は、間近に迫った検事長選挙の準備に余念がない。地域の女性を守る、DVを絶対に許さないという姿勢で市民の心をつかんでおり、サイスの有罪こそが選挙勝利の鍵と考えていた。被告人は犯行を強く否定しているが、事件の夜にサイスらしき男を見たとの証言もある。絶対に勝てる裁判だとキルブルーは確信していた。 陪審員として裁判に出席したケンプは、ある恐ろしい可能性を突きつけられる。被害者のカーターが死んだ夜、自分もサイスやカーターと同じバーにおり、二人の口論を見ていたのだ。そして、2人がバーを出たあと、車を運転して帰宅する途中、橋の上で「何か」にぶつかった。鹿と衝突したのだろうと思っていたが、もしかするとカーターを殺したのは自分だったのかもしれない――。その思いは、少しずつ確信に変わっていった。 無実の男が、自分の代わりに有罪になろうとしている。しかしケンプは、もうすぐ生まれてくる我が子と妻のために、今の生活を捨てるわけにはいかない。アルコール依存症を克服し、新しい人生を歩み始めたという自覚もあった。 物語はサイスの裁判~陪審員の評議と、ケンプによる一年前の回想を行き来しながら、ひりひりとした緊張感のもとに展開する。これは人間の良心や倫理をめぐる法廷スリラーであり、事件の真実に接近していくミステリーだ。 周囲の陪審員が「サイスは有罪だ」と主張するなか、ケンプは自分が真犯人かもしれないという現実に葛藤する。巧みなのは、本当にケンプが犯人なのかは誰にもわからないところ。真実が曖昧になるなかで浮かび上がるのは、ギリギリのところで駆動するケンプの善意と、猛烈に襲いかかる不安だ。