〈ニッポンの相続問題〉重たい介護負担・金銭負担…背景に潜む、相続人それぞれの割り切れない実情【弁護士が解説】
「介護が大変だった!」「いやいや、お金を使い込んだな!?」
では、「実家で同居して介護した子ども」「実家を離れた子ども」双方の視点から考察していきましょう。 ◆介護を手伝ったから多めに遺産が欲しい!→「寄与分」 まず、長男の「介護を手伝ったから多めに遺産が欲しい」という主張に応えるものとして「寄与分」という制度があります。 しかし、法律上の寄与分とは、筆者でもびっくりするぐらい認定のハードルが高く、「一般的な家族の助け合い・扶養義務の程度を超え、介護事業者と同程度の助力」があって初めて、寄与分が認められる、とされています。 具体的には、バリバリ働ける人が仕事を辞めて親の介護をした、仕事の勤務時間を減らして親に付き添っていた…というような場合は、介護事業者と同程度と認められ、お金が貰えるケースがあります。 しかし一方で、例えば、普通に働いているなかで土日だけ面倒を見ていた、長男が仕事しているときに長男の妻が代行して病院に付き添っていた…という程度では、寄与分は認められないのです。 「休日を潰して面倒は見ていたのに、多めの相続が認められない」となれば、不満を覚えるのも当然でしょう。 しかし、法律では「親族間の扶養義務」といって、「家族は本来助け合うもの」だと定められています。つまり、通常において期待される扶養義務を超えた分の貢献がないと、寄与分の請求はできません。先ほども述べましたが、寄与分の法的請求が認められるのは、とてもハードルが高いのです。 ◆親のお金を使い込んだだろう!?→「不当利得返還請求」 一方で、別居の二男が同居の長男に「親の介護を手伝ってるといいながら、親の金を使い込んだ」という主張は「不当利得返還請求」に該当します。わかりやすくいうと〈理由がないのにお金を勝手に使ったのだから、この使い込んだ分のお金を相続財産に戻してください〉という法的請求です。 ただし、この「使い込んだお金」とされているものが、本当に親のために使われたのか、それとも長男の私腹を肥やすために使われたのか、ということは判別しづらく、こちらも寄与分と同様、非常に立証のハードルが高いといえます。 たとえば、月の生活費が10万~20万円かかるところを、30万円引き出されていた、という程度では、類型的には請求は認められない傾向にあります。 ただ一方で、危篤で動けない親の口座から、なぜかATMで引き出し限度額である50万円の出金が10日間も続いたとか、複数回にわたってトータルで数千万円のお金が引き出され、なおかつ長男の借金がそれと同額分減ってた、などケースであれば、認められる余地があるかもしれません。 しかし、一般論としては「不当利得返還請求」も、上述の寄与分の法的請求同様、認められるのに相当高いハードルがあるといえます。
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